同調

いろいろ考えていたらこんな時間になった、オカルト好きだが、まさかこんなことになるとは思ってなかった。
気が動転している、もしかしたら俺自身がオカルトなのかもしれない。

俺の家族はほとんどが見える系で、俺だけ特異的に見えない、弟も妹も従兄弟も見えるのに俺だけ見えないんだ。
それで、家族内では拾われてきた子だ、とかからかわれるんだが、俺はちゃんと血の繋がっているから、不気味なのを目にしないでいいってんで両親も喜んでいた。

詳しくは分からないが、俺の祖先はある大名に仕えていた武士らしく、ある戦の最中に不意打ちの形で殺した相手の武士に、死人の苦しみを見せられるっていう呪いをかけられたらしい。
これも、子供のころ母親が布団の中で聞かせてくれる類の話で、昔の俺は信じてなかった、俺、見えないしというと、お前で呪いが解けたって冗談のように両親が話していた記憶がある。

だけど、学校に通いながら一人暮らしを初めてみて、体調が悪くなるようになった、夜寝られなくなる、足音を聞くようになる、朝目が覚めると寝た気がしない、でも元気は有り余り調子は絶頂だった、睡眠を必要としないような有様だったと思う。
だが気味の悪い悪夢を見るようになると、俺は精神的に病んだ。

悪夢は、その殺された武士の夢で、念仏を唱えながら、寝ている子供の枕もとを歩き、一人ひとりの顔を覗きながら、お前かお前か、といって回る夢だ。
あまりに気味が悪く、理由をつけ一時期実家に帰ると悪夢は見なくなり、学校へ行くとまた見る。
鬱病や神経失調かと思ったが、何度精密検査をしても異常は無く、医者は毎回睡眠薬を勧めるだけだった。

実家に帰る回数が多くなり、口実探しに困り始めたころ、相談していた友達からとある寺を紹介された、その寺は独特の考えを持った宗派で、友達はグーグル先生で調べたと言っていた。
その頃には、もはや一週間寝ないでも眠くならず、いくら働いても疲れないという状況だったため、悪夢はもう大した問題では無く、ある意味超人的な力に目覚めたのでは、と俺は自分に陶酔していた。
だが、ふと眠くなり授業中に居眠りをしたとき、その武士が一人の子供をまじまじと見ている場面を見て、やばい事に気付いた、あれは俺だ。

俺はレンタカーを借り、2日かけてその寺へ向かった、まる一日通して運転しても眠くならず、何も食べなくても空腹を感じなかった。 
俺は狂ったようにその寺へ一刻も早く到着したかった。

山道を登り、かなりの石段を駆け上がっても疲れなかった。
寺につき、とりあえず人を呼び、事情を説明すると本堂に通された。
嫌な感じがした、ずっと前酔狂で教会に行った時も感じた、体温の生温かさを感じるのに、背筋が震え、視界がぶれ一気に左右に引き延ばされるような感じだった。

和尚らしき人が入ってきて、俺に声をかけるまで俺はボーっとしていた、2、3問答を受け、自分の症状を話すと、和尚は神妙な顔つきになり、俺の目を睨んだ。
俺は蛇に睨まれた蛙のようにちじこまりながらも、視線を反らさなかった、数分の間を置いて、和尚は話し始めた。

まず、肉体とは魂の入れ物であり、その二つが同調して初めて精神や心のような機能が動き出す、という話をした。
まるでゲームのハードウェアとソフトウェアのような話だった、規格外の魂だと、肉体は受け入れるものの同調は低く抑えられる。

鏡を見て、自分が自分で無いように見える、男なのに自分を女と思い込む、可愛いとかっこいいと思い込む、好きなのにできない、嫌いなのに得意、何が嫌い何が好き、それらが、魂と肉体の同調のズレから生じるという話だった。

俺の現状を要約すると、今俺の体には2つの魂が存在しているらしい、どうやら俺の体は霊媒体質らしく、何処かの霊を引き寄せたらしい、それもかなりの昔から。
それは、どうやら長い年月を経て俺の体を侵食しており、最近の調子の悪さ(実際は良さだが)は今まで肉体と同調していなかった魂が表面に現れようとしているため、魂(和尚は意識と言った)にかかる負担が半減され元々の魂が知覚できていない。
このままだと自分の肉体の消耗を自覚できず体に害がある、と一気に話した。

俺は理解できず「痛覚が無いから、肉体の限界に気付けないのと同じですか?」と聞くと、和尚は首を縦に振った。
「ただ、お払いする危険性があるかというとそうでもありません」
「払ったからといって何か変わるものでもありませんし、そのもう一つの魂もかなり肉体と同調しています、恐らくは血縁者の方でしょう、そのうちあなたの魂に取り込まれます、とにかく、このまま放っておいても特に害はありません。」

そう言って付け足した「貴方が調子に乗って無理をしようとしなければ、ですが」
俺は黙って、間を置いて夢の話をした。和尚は静かに聞いていたが、じっと見つめられていた子供が自分に見えたと聞くと、静かに目を瞑った。
「私はお勧めしませんが、必要だと言われるなら」
と静かにいった、俺は悪夢を見なくなるならと、お願いした。

お払いの儀式というのには簡単すぎる、塩水を被り、焚き火に当たりながら無心になる、というものだった。
儀式が済んだあと、和尚は夢見心地の俺に近づき「もしや、貴方の家系は見える人が多いのでは?」と聞いてきた、俺は首を縦に振った。
「でしょうね、産み落とされた肉体と魂が同じ物であれば、やはりそれは遺伝する物です」

実はこれは少し昔の話だ、お祓いをしてもらって悪夢は見なくなりました、その程度ならもちろん、これなら洒落コワに投稿するレベルじゃない。
後日談がある、俺はその話を聞き、言い伝えが本当か気になった。

実家に帰った時、祖父に相談し、蔵を開けてもらい家系図を探した、すると、家系図と同じ箱に入っていた封の切られていない巻物があった、俺はそれを無断で持ち出し、大学の先生に解読してもらうことにした。

到来した不景気の中、就職活動に必死になり、すっかりその資料を忘れ去り、会社に入社し、俺は社会人生活を送っていた。
あまりにハードなスケジュールの中、俺は寝なくてもよく、疲れない体になった事を思い出し、そしてその巻物を思い出した。

研究室に顔を出し、先生に受け取りに来た事を伝えると、残念そうな顔をした先生に、一冊のノートと巻物を手渡された。
これは面白いね、怪談の一種かい?と先生は言った、俺は、はあ・・・?と言い受け取った。
ファーストフード店の机で、コーラ片手にノートをめくると、それは現代語訳された巻物だった、打ち取った首、領地、戦場、ペラペラとめくると、付箋が貼ってあった。

俺の目に飛び込んだのは
「我死せども貴様らを子孫の代まで呪いし、汝ら死者の姿を目に映す、我、汝らの子に??し、これ、我が復讐なり」
そしてその下に
「もしも、呪を受け継がぬ子が出た場合、殺すべし、其、??叉の生まれ変わりなり」

あの夢を思い出して、俺は背筋が寒くなった、俺の中に昔からいた祓ってもらった魂がその武士なのかと思い、そして思い出した。
「でしょうね、産み落とされた肉体と魂が同じ物であれば、やはりそれは遺伝する物です」
肉体と魂が同じでないなら?俺に呪いの遺伝が無くとも当然ではないか。
なら俺が祓ってもらった者は?俺は一体誰だ?

俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?
俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?
俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?俺は一体誰だ?俺は一体何だ?
書き込んでる、俺は一体誰だ?

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