小学生の頃、家族で海に行った時の事。
水泳が得意だった俺は、岸から30mほど離れた遊泳禁止のブイと網が張ってあるあたりまで泳いでいった。
しばらく背泳ぎでプカプカ浮いてたが、ふと海水が冷たくなったような気がした。
それでそろそろ泳いで戻ろうかと思って海中側にひっくり返った。
なんだか白いものが見えた。遊泳禁止ネットの外側、急に海が深くなっているあたり。多分12mぐらいの海底の岩に白いものが見えた。
どうやら白の半ズボンの体操着みたいなのを着た男の子の様だった。
俺は怖くなって慌てて岸へと泳ぎだした。だが波のせいか一向に前へと進まない。
その男の子が追ってくるような気がして死にものぐるいで泳ぎ続け、やっと岸へとたどり着いた。
ただならぬ俺の様子に父親が走り寄ってきた。息も整わないまま、俺は沖の方を指さした。
男の子がいた。ブイにつかまるようにして、こっちの方をじっと見ているようだった。
「あれは・・・?」父親がかすれたような声で言った。
その途端男の子は消えた。海に潜ったと言うのではなく、
かき消すように消えてしまった。
父親が血相を変えて走り出し、少し離れた所にいた地元の人間とおぼしき中年の男に話しかけた。
俺達家族は父親が大声で中年の男に訴えるのを聞いていた。
だが中年の男が首を振り、二言三言話すと、父親は意気消沈し、とぼとぼと戻ってきた。
そのまま何も言わず宿に戻り、翌朝早々にその海を後にした。
帰りの車の中で、昔あの海で子供が溺死したと中年の男が言っていた事を聞かされた。
去年父親が亡くなる少し前に、この事を話したのを思い出す。
ほどなくして父親はその海で入水自殺をした。
遺書などは何も残っていなかった。
ほんのりと怖い話7