飼い犬の納骨

実家の隣に、一人暮らししているおじいさんがいた。
五十代の頃に連れ合いを病気で亡くし、それからずっと犬を飼っていたのだが、その犬も十五年くらいして老衰で死んでしまった。

飼い犬に対する愛着があまりにも強かったので、自分の家の墓に納骨すると言い出したそうだ。
その際、家族からの反対もあったらしい。とある寺の住職も、同じ墓はあまり良いことではないと、御注進したという。

ここから先の話は、おじいさんの義理の娘、つまり息子の奥さんと親しかった僕の母親から伝え聞いた話なのだが、息子さんが同じ種類の子犬(柴犬)を買ってあげて、思いとどまるよう説得したそうだ。

当時高校生だった僕も、お隣のおじいさんが子犬を連れて散歩する姿を見たことがある。
でも二、三回くらいだったろうか。
子犬は首輪をはずして庭で遊ばせている時に、いなくなってしまったらしい。多分盗まれたのかも、と母親は言っていた。

間もなくして、今度はミニチュアダックスフントが隣家にやって来た。
これは良く鳴く犬で、僕の部屋にも鳴き声が漏れ聞こえていた。
ただし、完全な部屋飼いにしたらしく、一度だけしか姿は見ていない。
その後、僕は大学進学で上京し、隣家の事情は耳にしなくなった。

一年半ぶりに帰省し、家族で食事している時、そのおじいさんのことが話題になった。

母親曰く、あのミニチュアダックスフントは隣家にやって来て、すぐに病気で死んでいたらしいとのこと。

僕は自分の耳を疑った。
夜中受験勉強していると、時々犬の鳴き声が聞こえていたのだ。
あれはいったい何だったのか?
そうい言えば、隣家に人の住んでいる気配がない。

「○○のおじいちゃん、ボケがひどくなって施設に入ったのよ」
その時の話だけどね、母親は続けた。
「一緒に犬の骨を持っていくって言ったそうよ」
おじいさんは家族に無断で、墓に納骨したらしい。

最初はボケて言ってると思ったらしく、息子夫婦も取り合わなかったが、あまりにしつこいので墓を開けたそうだ。
するとおじいさんの言う通り、骨壷が出てきたという。

その話を聞いて、僕はあの頑固な独居老人の姿を想像した。
真夜中に吠えていたのは、いったい何だったのだろうか。

ほんのりと怖い話8

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