消えた海

私は祖父から消えた海の話を聞いた事があります。
祖父から聞いたこの話は、祖父の先祖が経験した話だそうで、祖父も曾祖父から聞いた話だそうです。
この話は先祖代々伝わる話でいつの時代の話か分らないと祖父は言っていました。

私の生まれた育った町は数十年に一度の割合で津波が発生し、その度にたくさんの死者が出ています。
ある日とても大きな地震が起こり、津波が来るかもしれないと思った村人たちはすぐに山へと逃げたそうです。

山の頂上で、村人たちは海の様子を窺っていると、みるみるうちに波は引いていき、海がなくなり地平線の向こうまで陸地になってしまったそうです。
これはとても大きい津波が来るかもしれない。しばらくは山を下りないほうがいい。
と村人たちは話したそうです。しかし二日たっても三日たっても波は引いたままで、津波は起こらなかったそうです。

もしかしたらもう津波は来ないのかもしれないと思った村人たちは自分の家に戻ったり、仕事の続きをやり始めたりしましたが、様子のおかしい海を怖がり近付かなかったそうです。
当時子供だった祖父の先祖も母親から海には近付かないようにと言われていたそうです。
しかし海はどこに消えたのかという疑問があり好奇心が強かった先祖は、友達と一緒に沖の方へ歩いて行ったそうです。

最初は友達と遊びながら歩いていてとても楽しかったそうですが、普段の海は綺麗なのに、波が引いた後でゴツゴツした岩肌があったり、地面がぬかるんでいて足場が悪く、たくさんの魚の死骸や海藻などがあり、汚くて気持ち悪かったそうです。
海が好きだったから先祖は子供心にとても悲しく思ったそうです。

ここはまるであの世のようだ。このままここにいたら帰れなくなるのではないか?

ふとそう思ったのですが、海を探しに行こうと言い出したのは自分だし、怖いから帰りたいと思っているのが友達にバレるのが恥ずかしくて、そのまま歩き続けたそうです。

しばらく歩いていると地面が崖のように急な斜面に変わったそうです。
急な斜面の向こうからゴォォォォという地鳴りのような聞いたことがない奇妙な音が響いていて、さらに斜面の下から強い風が吹いていたそうです。
その斜面は急で深くて下の方はどうなっているのか見えなかったそうです。

もしかしたら海はこの下に落ちたのかもしれない。
友達がそう言って試しに石を投げたそうですが、風と地鳴りのような音のせいで何も聞こえなかったそうです。
斜面の向こうにも行ってみようかとも思ったのですが、足場が悪くて下れない。
海を見るのを諦めて家に帰ったそうです。

そのことを両親に話したら、信じてもらえず、勝手に海に近づいたということで、母親にこっぴどく叱られたそうです。
それから七日ほどしてとても大きな津波がきて、たくさんの人が亡くなったそうです。

祖父は先祖が大陸棚の終わりを見たのではないかと言っていました。
しかし私は歩いて大陸棚の終わりまで行けるとは思えません。
このようなことがあるのでしょうか?

山にまつわる怖い話34

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