お神輿の声

自分が幼稚園、兄が小学校の1、2年生くらいのときのこと。

当時、家族全員で同じ部屋に寝ていたのだが、朝になると決まって兄が「昨日の夜、お神輿の声が聞こえた」って言う。

他の家族はそんな音聞いてないので、勘違いでしょって両親は兄をなだめていたのだが、兄は確かに聞こえたと言い張る。
なんでも「お神輿の声」というのは、祭囃子やお神輿を担ぐときの「わっしょいわっしょい」という声が合わさった音で、家の近くにある神社(大体300メートルくらい離れていると思う)の方角から聞こえてくる、とのことだった。

どうせ寝ぼけてたんだろうということで話は終わったんだが、次の日の朝も、その次の日も、兄は「やっぱりお神輿の声が聞こえる」って言っていた。
しかも、最初は遥か神社の方で音がするだけだったのに、段々近づいてくるらしい。
それでも両親は寝ぼけたか、子どもの妄言と思って適当にあしらっていた。

最初に「声」が聞こえてから、しばらく経った日の朝、母が兄に「昨日、寝てたのになんで急に立ち上がったの?」と聞いていた。
何でも、深夜に突然兄が立ち上がって、タンスの上の方をずっと見つめていたとのこと。
母が「もう寝なさい」と言うと「うん」と返事をして布団に戻ったということだった。

兄は真面目な顔をして、「お神輿の声が向こうから近づいてきて、いつもだったら途中で急に聞こえなくなるのに、昨日は家の前まで来た。
家の前でしばらく「わっしょい、わっしょい」と言った後、急に音がしなくなった。

だけど、何か近くで小さい声で「わっしょい、わっしょい」って声が聞こえるから、何だろうと思って起きてみたら、タンスの上のコケシが「わっしょい、わっしょい」って小さい声で言っていた。

でも、お母さんに寝なさいと言われたところで、 コケシも「わっしょい、わっしょい」って言うのを止めたから、自分も寝た」と返していた。

次の日から、兄はお神輿の声が聞こえるとは言わなくなった。

盆に実家に帰省した折、ふと思い出したので二十数年振りに兄に聞いてみた(正直、冗談だったという返事を期待していた)
兄は「うわ…思い出させんなよ」と心底嫌そうな顔をしていた。
未だに実家の物置部屋にはあのときのコケシが置いてあるが、どうも気持ち悪いので俺は絶対にその部屋に一人で立ち入らないようにしている。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 40

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