オヤジから聞いた話。
ウチのオヤジは東北出身で高校時代の山岳部に所属していた。
秋の山で合宿だーってことでテント担いで、山に入った。
2日間の合宿を無事終えて、下山することになった。
順調に下山していたが、途中から雨がふりだし寒くなってきたので急いで降りていた。
なんせ当時のザックやテントは水に濡れるとものすごく水をすって重くなる幌布製で、重さも寒さもひどかった。
みな無言で下山していると、前方に人影が見える。歩いている様子はなく、たたずんでいる。
どうしたんだろうと近付いていくと、山に似つかわしくない服装の女の人だった。
秋とはいえ東北の山は寒く、夕闇もせまっていたので、心配になり声をかけた。
「どうかしましたか?」
「いえ・・・大丈夫です」
「一緒におりますか?」
「いえ・・・大丈夫ですから」
無気味さを感じた一行は気にしつつもそのまま下山した。
ようやくトロッコ電車の駅に到着し、一行は目を疑った。
先ほどの女性がホームのベンチに座っている。気味が悪かったが、こちらは20数名のパーティー。
全員が見ているし、なによりも先ほどしっかりと会話もかわしている。足もしっかりついている。
少し距離をおいてあまり見ないようにしていた。最終電車が入ってきて、その女性も乗車した。
濡れて寒そうだったので、車掌が電車内のストーブにあたるよう促したが、やはり「大丈夫です」と言っている。
気味の悪い妙な雰囲気のまま、電車は町の駅に到着した。
一行は女性がその駅からタクシーに乗っていったのを確認した。
ここから先はオヤジも新聞で知ったらしいのだが、タクシーが告げられた行き先に到着すると、女性は座席からこつ然と消えたらしい。
到着した先の家ではお通夜の最中だった。その数日後、山の滝つぼから捜索隊が身投げした女性の遺体を発見した。
当時、山岳部と電車の車掌、タクシーの運転手総勢30名近くの人間がみたと言う事で、新聞や雑誌でかなり騒がれたらしい。
古い話ですまん。
山にまつわる怖い話36