社から出てきた人

山麓生活中の俺が話しますよ。

家の周りの山の中には、祠や社殿が結構ある。
大抵は道沿いにあるが、たまに人目の付かない薮の奥にあったりする。
俺も全部は把握していないので、今でも散歩中に新しいものを見つけたり。
半年程前にも、小さな社を見つけた。

その社は、山の斜面にクネクネ続く舗装された車道沿いにあって、車で走っていると見つける事は難しい。
周りも竹薮に囲まれていて、俺が見つけたのは本当に偶然だった。
賽銭箱があったので拝殿だと思うが、それにしては少し小さい。

俺が2メートルくらいまで近付くと、社の中からオッサンが顔を覗かせた。
丁度、社の木戸が少し開いていて、そこから顔だけ出している形だった。

かなり驚いたが、オッサンの方は冷静な様子で俺を見つめていた。
浮浪者かとも思ったが、この辺りでそんな人を見た事は無い。
社を掃除でもしていたのかと思って、俺は軽く一礼してみた。

すると、オッサンが「○○か?」と尋ねて来た。
俺には聞き覚えのない人の名前だったので、「いいえ」と言った。
すると、また「○○か?」と別の名前を言って来た。

さすがに気味悪くなったので、首を横に振って薮を出ようとすると、後ろで木戸が軋みながら開く音が響いた。
俺は、オッサンが追いかけて来ると思って、急いで薮から車道に飛び出した。
少し走ってから振り向くと、オッサンが追い掛けて来る様子は無い。
ホッとした俺は、そのまま家に帰る事にした。

山を下りる途中、誰かが呼ぶ声が聞こえた。
オッサンの声だと分かったが、聞こえたのは上の方だった。
見上げると、6~7メートルある杉の木の上にオッサンの顔が見えた。

そこで気付いたのは、オッサンの身体が妙に小さい事。
人面猿みたいな印象だった。
怖いというよりも不思議な感じがして見上げていると、オッサンが上から「○○だろ。」と言った。

俺の名前だった。
途端に怖くなって立ちすくんでいると、オッサンは「お前の家には×△○があるから、××にも気負うなと言っとけ。」というような事を言った。

この××というのは、俺の親父だが他界している。
×△○というのは、よく聞き取れなかったが方言っぽい響きだった。
オッサンは杉の木を少し揺らして消え、俺はガクブルで帰宅。
家族に言おうか迷ったが、それとなくオッサンの存在を祖父母に聞いてみた。

祖父母によると、山には「そういうもの」が昔からいるらしい。
もしかしたら、親父も生前に会っていて、何かあったのかも知れないという話をされた。
そうなると、×△○の言葉が気になって来るが、分からずじまい。
時間が経つと怖さは薄れ、逆にオッサンに会いたくなって行った。
何度か社に行ってみたが、あれ以来オッサンには会っていない。

その後、親父の日記がある事を思い出した。
日記を読んでいる内に泣けて来たが、オッサンに関する記述はなし。
ただ、3年前の約一ヶ月、日記を書いていない期間があった。
この間に何があったのか色々と探ったが、特に何があったでもない。

山にまつわる怖い話39

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