ナメクジ

西洋の怪奇短編集の編者あとがきで読んだ話。うろ覚えでごめん。
(本のタイトルも失念)

編者の高校の漢文の先生が、若いころ、散歩の途中で一匹のナメクジが、じっと前方の樹を見つめているのを見つけた。
はて、こいつはどうしようというんだろうかと見ていると、いつの間にかナメクジの体の周囲に靄のようなものが立ちはじめ、やがてナメクジは靄の中に隠れて見えなくなった。

どうなるのかとなおも見つめていると、靄の中から一条の細い光の糸のようなものがするすると伸びて、その先端が前方の樹の幹に達した。
ふと見ると地面にいたはずのナメクジが消えており、いつの間にか樹の幹に移動しているではないか。

「ほう、知らなかった。ナメクジはこうやって移動するものなのか」
と先生は感心したが、そのことを他人には言わなかった。

それから何年も経って、ある寄り合いで「錯覚だったのかもしれませんが…」と、若いころの自分が見た話を披露した。寄り合いが終わり、帰りかけると、参加者の一人が先生のところに来てこう言った。
「ナメクジの話をされましたね。だれにも話していないんですが…実はそれ、私も郷里で見たことがあるんです…」

104 : ID:iZ0orDP70

>>102
その本は「怪談の悦び」(創元推理文庫)、件の教師は板谷菊男氏。
「天狗童子」という短編小説集も出しておられる。

ほんのりと怖い話23

シェアする