山奥への道

心霊とかじゃないんだが。

小学生の頃、親父と妹と親父の母親(俺から見て祖母)と一緒に、山にデイキャンプをしに行った。
今になって思うと、お袋と嫁姑問題で壮絶なバトルをしていた祖母の気を紛らわすためのプチ旅行だったんだと思う。

さんざん遊んで、夕方、車に戻ろうとした矢先、祖母が行方不明になった。
周囲は、標高こそ低いものの、未舗装の山道が縦横に走っている。そのコースに迷い込んで夜になったら大事だった。
親父は、俺たちを車に押し込め、一人で探し始めた。が、すぐに戻ってきて、
「こっちの登山コースを登って探しに行ってくれないか?コースの出口で待ってるから」
と言った。

俺と妹は、言われるままにコースに足を踏み入れ、15分ほど歩いた。
日は落ちるしコースはなかなか下り坂にならないし、で、かなり焦りを感じた頃、背後から40歳ぐらいのオッサンが登ってきた。

俺が、
「この道、何分ぐらい歩けば下山できますか?」
と聞くと、オッサンは、
「え?下山する気なの?このまま進んだら、ますます山奥に迷い込んじゃうよ」
と答えた。

俺は慌てて、妹の手を引っ張って、元のルートを戻り始めた。
オッサンは…今考えればおかしな話だが、そのまま『山奥への道』を進んでいった。

小走りになりながら、なんとか薄暗いうちに元の入り口に辿り着くと、親父が心配そうな顔で出迎えてくれた。
祖母は、事情はよくわからなかったが、車の中で泣いていた。

帰りの車の中で、親父にオッサンの話をすると、親父は首をかしげていた。
「その男なら俺も見た。こんな時間に山に入っていくなんて変だなと思ったが、お前たちの助けになるかもしれないと思って、『子どもたちを見かけたら、まっすぐ進むように言ってください』と伝えておいたんだ」
実際、俺たちが引き返さずに進んでいたら、あと5分ほどで下山できるようなショートコースだったらしい。

後部座席で、泣き疲れて眠っている祖母と心配疲れで爆睡している妹を見ながら、俺、鳥肌が治まらなかった。
あのオッサンは、俺に嘘を教えたとき、目が釣りあがっていた。嬉しそうに。
山道で迷う怖さは、登山家なら身に染みているはずだ。
子どもの俺たちに不要な不安を与える意味はなんだったんだろう。
そして、オッサンは何しにあんな時間に山に入ってきたんだろう。

山にまつわる怖い話42

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