全身黒い毛で覆われている人間

漢の成帝の時代、狩人が山中で、裸で全身黒い毛で覆われている人間を見た。

狩人は、捕まえてみようと追いかけたが、これは堀を越え谷を越えて逃げ、その足の速さにはとうていついてゆけない。そこで、ひそかに後を追って、その棲家をつきとめた。
すると、それは、ひとりの女であった。

そこで、狩人はこの女から話を聞いた。

「私はもともと秦の宮殿で宮仕えをしていましたが、敵である楚の兵隊に占領され、秦王は滅ぼされ、宮殿も焼けたと聞いて、驚いて山中に逃げ込みました。 山中では食べる物も無く、餓死寸前のところ、ひとりの老人が現われ、松葉と松の実は食べることができることを教わりました。最初は苦くて食べにくかったのですが、次第と慣れ、餓えや渇きを感じなくなり、冬も凍えず、夏も暑さを感じなくなりました。」

この女の話からすると、秦王子嬰に仕えていたらしい。
とするとこの女、二百歳となる。狩人は、この女を連れて帰り、穀物の飯を食べさせた。
最初は穀物の匂いをかぐだけでも嘔吐していたが、次第と慣れていった。
二年ほどたつと、女の全身を覆っていた黒い毛は抜け落ちたが、ついに、老衰で死んでしまった。

この女、山中で人と会わなければ、仙人となっていただろうに。

山にまつわる怖い話43

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