怪談アンケート

俺が高校の新聞部だった頃、部の仲間たちと一緒に実験をしたことがあった。

実験の内容は、「噂は一週間でどれだけ広まるか」。
実験方法はというと、適当な学校の怪談をでっち上げて、 一週間過ぎたらアンケート調査を各クラスに実施するという単純な方法。

幾つかある質問の最後に、「あなたの知っているこの学校の怪談を簡単に書いてください」というものを用意した。
学校の怪談の方も、新聞部でいくつか考えた。

そのうち俺の考えたのは、
「殺したい奴の名前を赤い字で紙に書いて学校裏の林の木に打ちつけると、その相手は死ぬ」
という、丑の刻参りを真似たようなもので、一週間後アンケート結果をみると、あまり広まっていなかった。
(400人いる学年で、10人くらいしかアンケート用紙に書かなかった)

ほかの怪談もあまり広まっていなくて、 結局この実験については記事にすることもなく、遊びに終わった。
それから卒業して大学に行ったが、今年の夏、三年ぶりに母校を訪れた。
当時の新聞部の連中何人かとちょっと昔を懐かしんで、 夏休みで人のいない校内を歩いたりした。

高校時代みんなで昼飯を食べた中庭を歩いている時、 植え込みの陰に変な紙が落ちているのに気がついた。
その紙はノートのページを四分の一くらいに切った大きさで、 赤い字で女の名前が書かれていた。
(最後の字が「美」だったから、多分女だと思う)

「これって……」
「ひょっとして、あれ?」

俺も友人たちも、三年前新聞部でやった実験を思い出していた。

「まじかよ……あの怪談って残ってるの?」
「どうなんだろね」
「俺の作ったやつも残ってるのかな?」

みんな当時を思い返して、ちょっと興奮気味だった。

「あの怪談だと、たしか打ちつけるのって裏の林だったよね?」
「うん……。そうだったと思う」
「ひょっとしたら本当に打ちつけてあるかも。行ってみない?」

全員一致で行くことになった。
学校の裏手にある林は三年前と変わらず結構木が茂っていて、 夏の昼間でも薄暗く、涼しかった。

談笑しながら進んでいった俺たちだったけど、奥に進むにつれて言葉を失った。
所々の木に、白い紙が打ちつけられていたのだ。
紙の大きさは皆小さめで、注意しないで歩くと薄暗がりで見過ごしてしまいそうだったが、あちらこちら、至るところに打たれているのが見て取れた。

近づいて見ると、それぞれに赤い字で名前が書いて、釘などでなく、画鋲やテープの類で木にとめられていた。
「死ね」「消えろ」などの言葉が加えてあるものもあった。
取りあえずいくつあるか調べてみようということになり、各々調べる範囲を決めて数えていくと、実に七十数枚あった。
(それで全部かは定かではない。多分もっとあったと思う)

卒業してから三年、俺の作った怪談がここまでになったのかと思うと少し感動したが、要は三年間で七十人以上の人間が「人殺し」を試したわけで……
俺たちの頃も今もたくさんの人間が学んでいる学校、その中の友達関係が、不気味で怖いものに感じられた。

「~すれば死ぬ」なんてのは遊び半分でやるものなんだろうけど、でも少しでも殺したい、死んで欲しいという望みがなけりゃしないし、意外と殺意ってそこらに渦巻いてるんだなと思った。

ちなみに紙は回収しないで、そのままにして帰った。

ほんのりと怖い話26

シェアする