小屋の中の女

岩手県のある町のある山の中に、誰も奥まで入ったことがない洞窟があった。
この穴の壁面にはちょっとした壁画があり、大昔は蝦夷が生活していたのだろうという。

あるとき、ある猟師が「この洞窟の奥を確かめてやろう」と言って、お供の白犬を連れてこの洞窟へ入った。
なんてことはない洞窟だったが、暗闇を暫く歩くと急に辺りが開け、光が差し込んできた。

そこには、広い空間があったのだという。
猟師は、これが世に言うマヨイガの類ではないだろうかと考えたそうだが、その割には花一本咲いておらず、何か綺麗な御殿や姫がいるわけでもなく、やけに殺風景だったという。

猟師が犬を連れて歩いてゆくと、小川が流れており、それを飛び越えると、どこからともなく機織の音が聞こえてきた。

人がいるのか、と猟師が先を急ぐと、そこには粗末な機織小屋があった。
音は間違いなくそこから聞こえる。猟師がその機織小屋に入ると、一人の姫がこちらに背を向けて機を織っている。

猟師が声をかけようとすると、女がフッと笑うのが気配でわかった。
女が振り返った途端、犬がけたたましく吼えた。

女の顔には、ひとつしか目がなかった。目がひとつであること以外は人間と変ったことはなかったそうだが、遠目にも女の肌の毛穴まで確認できたというから強烈である。
猟師が腰を抜かすと、女はその一つ目顔でニィ……と笑いかけてきたそうだ。

猟師はほうほうのていで洞窟から逃げ出し、そのことを周囲の人々に語った。
それからはその洞窟に入ろうと言い出すものはいなくなったという。

そのとき連れて行った白犬はあまりの恐怖に毛が赤くなってしまい、死ぬまで赤犬のままだったという。

山にまつわる怖い話48

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