父と侍

父親が、幼い頃に体験した不思議な出来事です。

私の父親はアメリカ人です。父親は、成人してから日本に移住しました。
小さい頃から憧れていた国が日本だったそうです。
そんな父(当時9歳)のためか、家族で日本へ海外旅行となりました。

父は、とっても張り切りガイドブックを読み耽り、ワクワクしながら日本に到着。
日光や鬼怒川、新宿や浅草など関東を巡ったそうです。
日本=忍者や侍 だった父親は、忍者や侍がいないことにショックで、わざわざアメリカから持ってきた宝物のオモチャの刀を、道端のごみ箱に捨てたらしいです。

しかし、捨てた直後から激しい後悔にかられ、観光から帰ってきた旅館で夜中に泣いていたそうです。
皆が寝静まり、静まりかえった部屋にいつの間にか侍が立っていました。

オーマイガー状態の父親に、侍はゆっくり近付いてきて、そーっと捨てた刀を渡してきました。
父は、侍にサンキューベリーマッチと言い、英語で興奮気味に話しかけました。しかし侍は、ニコッとしただけで黙っています。
次の瞬間スウーッと侍は消えました。

父は何故か、このことは絶対内緒にしなきゃ!と思い皆には黙っていました。
それから一週間、観光中に何度も侍は突然現れました。
父以外には見えていないらしく、侍は父を見て優しく微笑んでいました。
道に迷ったりしたときは、右手をかざしてくれて右へ進むと目的地へ着いたそうです。

父はコミュニケーションをとれない侍へ、自分と侍の手を繋いだ絵をかきました。
アメリカに帰国する前日、侍は夜中に突然現れました。
父は下手くそな日本語で『いっしょ、シカゴ、いこう』 と言いました。

侍は、悲しそうな顔で首を振りました。
父は、英語でPLEASE!PLEASE!と言いながら激しく泣いてしまいました。
侍は、静かに涙を流し、色とりどりの小さな星が入った小びんを手渡しました。

父も侍に絵をプレゼントしました。
父は侍に『ぜったい、また会えるよね』と聞きました。
侍は淋しそうにニッコリして、スウーッと消えていきました。

帰国し、それから二度と、侍に会う事はありませんでした。
しばらく経って、大人になった父は確信したそうです。
あのとき、侍がくれたコンペイトウは、二度と会えない自分を思ってプレゼントしてくれたものなんだ、と。
日本を好きになってくれて、本当にありがとう。これからずっと、一人ぼっちにさせてしまってゴメンね…。という意味だったんだ、と。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 58

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