助けた狸

沢登りをして体験した話。

いつもの様に友達と二人で沢を上っていると上から木の実が落ちてきた。
特に当たり前なので気にもしなかったが、何故か一定の間隔で上から落ちてくる。
しかも必ず俺の身体に当たるように。
8Mほどの滝の横を必死になって登っているときも頭に木の実がコツンと当たった。
俺は必死だったがこのとき当たった木の実は拾っていた。

見ると木の実は胡桃だった。
近くに胡桃の木は無い。
滝を登りきり達成感と共にあたりを見渡すと、また木の実が落ちてきた。
上を見ると木なんか無く青い空が開けていた。

友達にその話をしたらくだらないと一蹴され、再び上を目指し沢を上り始めた。
しばらくするとまた木の実が肩に当たった。
しかも横から。
確実に誰かに投げつけられたと思い、飛んできた方向を見ると何かの視線を感じた。
友達も「何かいる!!」と同じ方向を指した。

怖かったがその方向へ歩いてみると、なんとそこには狸が二匹座って?た。
普通なら逃げるんだろうけど、その二匹は逃げずにずっとこっちを見ていた。
よく見ると二匹は逃げなかったんじゃなくて逃げれなかったとすぐに気付いた。
一匹の狸は足に何かで傷つけられた傷があり血が滲んでいた。

俺と友達は放置して先を行こうとした瞬間、またまた木の実が上から落ちてきた。
俺はすぐに狸の方を見ると何故か再び近づき様子を伺った。
多分夫婦なんだろう。
片一方が傷口を一生懸命舐めていた。

いつもなら何とも思わず「淘汰淘汰w残念狸さんww」とか言いながら放置して行くんだけど、何故かこの時だけは変に優しい気持ちになり、二匹に手を差し伸べ捕まえる事が出来た。
友達は「喰うの?」とか言われたけど、俺にはそんな気持ちひとつもなかった。

狸に効くかわからないけど自分用の消毒液を傷口に塗り、抱っこして歩くのも厳しかったので、一匹を友達のリュックの中に、怪我をしている方を俺のリュックの中に入れ予定を変え下山した。

山を降りてすぐに町の動物病院に連れて行ったら、医者がもう少し遅ければ死んでいたと教えてくれた。
その後二匹は怪我の具合が良くなるまで俺の家で保護する事した。

そして数日後、すっかり良くなったのか走り回れるようになっていた。
狸って鰯喰うって初めて知った。
さすがにずっと居られては困ると思い、「そろりとお前等自分の山に帰るか?」と冗談に声をかけた。

翌日、仕事を終えて二匹分の鰯を買って家に帰ったら、二匹とも居なくなっていた。
慌てて探したけれど、どこにも居なかった。
残ったのは大量の鰯だけ。

それからまた数日経って狸二匹が居なくなったと同時に、もう一つ無くなっていた物に気付いた。
それは俺の給料が入る通帳とそのはんこ。
通帳とはんこはすぐに再発行してもらったが、今でも数ヶ月に一回、いつの間にか窓口で数百円がおろされている。

あいつら・・・鰯が相当気に入ったのかな?

山にまつわる怖い話50

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