山のてっぺんに泉が湧く

昔、祖母から「山のてっぺんに泉が湧く」という奇妙な伝承をよく聞かされた。
祖母のおとぎ話レパートリーの中でも、その話だけとくに落ちも寓意も無く、聞かされるたびにぽっかりとした心持ちになって、印象に残っている。

地元猟師の言い伝えで、山脈の猟場の一番高い岳から眼下の木々深い山々の頂を眺めると、ごくたまに特定の山のてっぺんに、まぁるく木々が消え牧草が広がり中央に泉が湧いている光景が見える。

「何だありゃ?あり得ん」その足で見に行っても、次の日岳に登っても、それらしい山は無く、山脈は通常営業木々生い茂り、尖った頂を連ねている。
山の神様はときに幻を魅せる。変だね。不思議だねってだけのお話。
私は自生の大麻を疑っている。(いた?)

数年ぶりに帰省し、友人の車でドライブしていると、山脈の一部のてっぺんが禿山になっているのが見えた。
「何のごつぁろぴす、あすくぅなはんげ。あぬぅ山んぅぇびっちょん?」方言に偽りあるが、友人にたずねると、ブランド展開を始めた短角牛の新しい放牧地を、山の上に造っているのだという。暇だしそこへ行ってみた。

休日なので作業員も居らず、鉄柵も脇からくぐれたので中に入ってしまう。
そこには辺り一帯、木を切り抜き整地を終えた山頂が広がっていた。
さらに進むと中央に、畜牛の飲み水の確保だろう、貯水池が出来上がっている。
あれ、この光景って?

この辺りの山も昔、猟場だったはずだ。
山の神様が魅せる幻は、山の記憶か?天上世界か?それだけか?
もし、猟師達の見た幻の光景がその山の未来だとしたら?
いや、私はベニテングダケを疑う。

山にまつわる怖い話50

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