いつも側にいた女

千葉に居た頃の話。

今から二十年程前、小学校の頃。
近所の公園で友達と遊んでいた俺は、転んだか何かで膝を怪我して、ベンチに座っていた。
友達がキックベース(サッカーボールを使う、蹴る野球みたいな遊び)をしているのをぼーっと見ていたら、髪の長い女の人がこっちに近付いてきた。
凄く痩せていて、目が大きかった。

その人は俺の方を見ながら、何かを繰り返し喋っていた。
最初はよく聞き取れず、ボソボソとしか聞こえなかった。
頭を洗うような感じでわしわし掻きながら、ずっと俺を見て喋っている。
気持ちが悪かったけど、露骨に逃げるのも悪い気がして、遊んでる友達に無理矢理意識を集中させて、その人の方を見ないようにしていた。

しばらくすると視界の隅の女の人が少し前屈みになった。
頭を掻く音がざりざり聞こえてきて、一緒に声も大きくなってきた。
彼女はこう言っていた。

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい」
友達らは確かにギャーギャー騒いでいたけど、俺は別にうるさくもしていなかったので、何を言ってるのだろうかと思いながら無視をし続けた。

でもだんだん声は大きくなってくる。
気になって一瞬女の人を見たら、凄い顔で俺を睨みながら、うるさいうるさいと繰り返していた。
うつむいたままこっちを見てるから、半分白眼みたいになっていて、それがとても怖かった。

友達の一人が俺の名前を叫んだ。
それをきっかけに、俺はダッシュで友達の元へと走った。
ベンチを離れる瞬間、女の人がバッと手を伸ばしてきて、手首だか肘だか硬い部分が俺の頭に当たった。

その直後に、女の人が絶叫した。
「あー!あー!」
俺が合流するかしないかの内に、友達らも全員走り出した。
猛烈ないきおいで逃げたけど、女の人は追って来なかった。

友達は何度も俺を呼んでいたが、俺はしばらく無反応だったらしい。
「あぶねーよ」
と、怒られた。

それが一度目だった。

二度目は中学の時。
友達と俺の家でファミコンをしていたら、突然悲鳴が聞こえた。
びっくりして見に行こうとしたら、母親が俺の部屋に飛込んできた。

「変な人が居る」
友達と外をうかがったが、誰もいない。
話を聞くと、庭先に女の人が居たらしい。
頭を掻きながら、うるさいうるさいと繰り返していたとか。

母が震えながら、何ですか?勝手に入ってこないでくださいとか言っていたら、急に女が叫びだしたという。
白眼を剥いて、両手で自分の髪の毛を引っ張りながら、「ギャー!」と絶叫したらしい。

俺は小学生の頃を思い出していた。
その時居た友達も、昔公園に居合わせて居たので、同じ事を思ったらしい。
ただ、母親を怖がらせたくなかったので、公園での出来事については何も話さなかった。

これが二度目。

三度目は曖昧。

二度目から十数年後。
今から五年程前。
アパートで独り暮らしをしていた時。

六畳一間で、玄関を開けると二メートル位の廊下があり、両サイドにキッチンとバスルーム&トイレがあるという作りの部屋。
深夜ネットゲームをやっていたら、玄関前を誰かが通りすぎた。
隣人が帰宅したのかと、気にせずにゲームを続けていた。
そして再び玄関に目をやったら、女の人が立っていた。
黒くてボサボサの長い髪の毛を両手で抑えている。

「誰か来たみたい」
と発言してから、再度玄関を振り返ったら、消えていた。
ちなみに施錠はしていた。
今のところ、それが最後。

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