先輩が誘導する道

俺の子供の頃の話なんだけどさ。
今でも少しだけ怖いから呟いてみる。

二時間あれば往復できるような小高い山が近くにあるんだ。
まぁ、蒟蒻屋と松の伝説がのこってるだけの古びた山なんだけどさ。
そんな場所で、それこそ幼稚園の頃からその山に登ったことがあるぐらいに身近なんだ。
登った回数なんて3桁にはならないけど2桁後半にはなってると思う。
遭難なんて有り得ないような場所だから、たしか小4の遠足で登った訳さ。

その遠足、小6の先輩が先導してもらい、山頂の先生にチェックして貰えればどんな道でも良いっていう仕組みだったんだけど。
先輩が誘導する内にうちらの班だけ変な道に入って、先輩が言うには近道だって。
自信満々でどんどん先いっちゃうんだ。
で、気づけば周りにはうちらの班だけ。

本当に近道なのか怪しいと思ってたころに、ふと気がつくと頂上付近の見慣れた道に出て、しかも他の班より早い。
普通に登るより子供の足で15分くらいは短縮してたと思う。
凄い道あるんだなー、なんて子供心に思ってたんだけど、帰りは何故か普通の山道を歩いて帰った。

で、中学上がるちょっと前位に母親と妹でその山に遠足する機会があって。
山道前の鳥居を抜ける最中にふと思い出したんだ、そういえば近道があるって。
それで親も良いよって言ったし、その近道を歩くことになった。

山道を少し進んだ当たりで左右に道が別れてる。
右は何時もの正規の道。左は途中から道と言うよりも獣道になってるのが遠目からでもわかる。
もちろん近道は左だから左へ曲がったんだ。

最初は記憶通りの近道。
だったんだけど、途中から道がどこかおかしい。
最後には獣道すら無くなって、手を使わないと上がれないような斜面にあたっちゃったんだ。

こんな道は記憶にない、俺が間違ってたんだ。そう思って、戻ろうって母親にいったんだけど。
母親は後ろを一度振り返った後、前に進みなさいって頑として聞かなかった。
小学校低学年の妹を必死に支えながら斜面を登ろうと急かすんだ。

さすがにおかしいと思って俺も後ろを見たんだけど。
その瞬間だけは今も鮮明に覚えてる。
無いんだ、今まで来た道も。俺らの足跡も。

で、本当に必死になって登って、なんとか見覚えのある道に出た。
山頂の近く、先輩が通った近道を抜けた合流場所。
泥まみれ、汗まみれで遠足なんて切り上げて無論直帰。
そのあとは別になんも無し。
無事に帰れためでたし、めでたしだったよ。

ただ、うちの中学は幼、小、中ってエレベーター式だったんだけど。
班長だった先輩、探したんだけど居なかったんだよね。

山にまつわる怖い話56

シェアする