先輩の話。
彼のお父さんの実家は山奥の小村で、すでに廃村となっている。
そこの村人の多くは、狩猟で生計を立てていたそうだ。
狩人たちは獲物を正式な名前で呼ばず、村独自の呼び名を付けていた。
鹿や兎などはヨツ、猿はフタツ。猪だけは別格でクジラと呼ばれていたらしい。
鳥には特別な呼び名はなかったそうだ。
ある早朝、お父さんの家に村中の狩人が集まったのだという。
何やら深刻そうな顔で打ち合わせをし、皆で山に入っていった。
お父さんはまだ幼かったが、唯一つ憶えていることがあるそうだ。
「ミツが出た」この台詞がくり返し述べられていた。
夕方、山に入った狩人が帰ってきた。
猟は成功したらしいが、なぜか獲物を誰も下げていなかった。
皆返ってくるなり、塩をまいてお清めをした。
それから間もなく、村人は村を離れ始めたという。
村が廃れるまで長い時間はかからなかった。
あの日、狩人たちが何を狩ったのか、お父さんはずっと気になっているのだそうだ。
山にまつわる怖い話6