山中の温泉街

知り合いの話。

会社の慰安旅行で、山中の温泉街に出かけた時のこと。
思っていたより大きな町で、小さいながら風俗店もあったのだそうだ。
宴会が終わると、同僚たちと早速出撃したという。

期待していなかったのだが、思いがけず若い姫がついてくれて喜んだ。
いざ入浴する段になって、彼は急に尿意を覚えたらしい。
ビールを飲みすぎたなと思い、姫に断ってトイレに向かう。

トイレに入った彼は、その場で硬直してしまった。
ついさっきまで自分と談笑していた姫が、目の前の便座に座っている。
彼女は泣きながら手首を切っていた。
鮮やかな赤色が、彼女の半身を染めていた。

慌ててドアを閉めると「どうしました?」と声がかけられた。
件の姫が温タオルを持って、不思議そうな顔で彼を見ている。
見てはいけないものを見たような気がして、彼は何も言えなかったという。

それでも彼は、することはしっかりとしてきたのだそうだ。

山にまつわる怖い話6

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