酒エチケット

友人の話。

秋の山を単独で縦走していた時のこと。
開放されていた山小屋に泊まったのだという。
気温はまだ暖かく、虫の声が心地よく響き、空には満月がかかっていた。

酒好きの彼は、日本酒を瓶ごと山に持ち込んでいた。
今夜は美味しい酒が飲めそうだと、ウキウキしながら酒宴の準備にかかる。
つまみを出そうと、机の上に置いた酒瓶に背を向けた時。

 ポンッ

背後で栓を抜く音がした。続いて喉を鳴らすような音が聞こえる。
恐怖よりも先に酒を飲まれた怒りの方が強く、彼は怒声を上げて振り向いた。
そこには誰もいなかったが、酒は三分の一ほど分量が減っていた。
「一言でもあれば、一緒に飲んでやったのになあ」
彼は相手の酒エチケットの無さを、今でも責め続けている。

山にまつわる怖い話7

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