知り合いの話。
彼の親戚に筆作りの名人がいた。
彼が書道をたしなむせいもあって、よくその伯父さんの家に遊びに行っていたそうだ。
ある時、一本の変わった筆を見せられたことがあるという。
見た目は普通の白毛筆なのだが、何というか、手触りがえらく気持ち悪かったらしい。
毛の一本一本が、まるで自ら指にまとわりついてくるような気がしたのだという。
これはグチの毛から作った筆だ、と伯父さんは言った。
グチというのは伯父さんが勝手に付けた名前で、本当の名前は猟師しか知らないそうだ。
一種の禁忌に当たる獣らしく、その毛皮は滅多に手に入らない。
伯父さんの数代前の先祖が、かなり無理をして入手したということだ。
その筆には、人を呪う力があると伝えられていた。
呪いたい人の名前をその筆で書くと、ひどい災いがその人に降りかかるのだと。
試す気にもならないけどな。
そう伯父さんは苦笑していた。
伯父さんは、つい先日に亡くなったそうだ。
呪い筆がどこに行ったのかは、もう彼にはわからないのだという。
山にまつわる怖い話7