友人の話。
植生の研究のため、夏山に一人で入っていた時のこと。
ある夜、彼は不意に目が覚めた。
いつの間にか、テントの中に生臭い匂いが充満していたのだ。
驚いて身を起こそうとすると、耳元で誰かに囁かれた。
「・・・添い寝・・・」
知らない女性の声だった。
いきなり背後から手が回され、彼はしっかりと抱きしめられた。
背中に柔らかい身体が押し付けられる。
寝袋にくるまったままで。
生まれて初めて失神したのだという。
翌日以降、びくびくしながら夜を過ごしたが、二度目は現れなかったそうだ。
山にまつわる怖い話9