友人の話。

彼の家は町の外れにあって、山がすぐそこまで迫っている。
彼は毎早朝、山道を散策しているのだそうだ。

先日、いつものように山道を散策していた彼は、無残な光景に出くわしてしまう。
山道から少し外れた林の中で、猫の死骸が木から吊るしてあったのだ。
猫の身体には、釘がびっしりと打ち込んであった。
死体下の地面には、ドス黒い染みが出来ていたそうだ。
気持ちの悪いことに、猫を吊るした木には不気味な落書きまでされていた。

 惨いことをする・・・

猫好きの彼には見過ごしておけなかった。
吊るされた猫を下ろし、釘を抜いてから近くの木の下へ埋葬したという。

近所で聞いたところ「またか」という反応が返ってきたそうだ。
なんでも時たまにだが、動物の虐待死体が山中で発見されるのだと。
決まって猫が被害に遭っており、釘だらけにされているのだと。
警察に通報すべきかどうか住民の間でも意見がまとまっていなかったらしい。

それから半年くらい経って、彼は再び猫の死体を見つけてしまった。
今度は家からかなり離れていたが、状況は前回とまったく同じだった。
暗い気持ちで、家まで埋葬用の道具を取りに帰ったという。

スコップ等を手にし、暗い気持ちで死体の元へ引き返す途中、一人の男とすれ違う。
いやな眼つきで睨んで来たので、慌てて目を逸らし通り過ぎる。
男は腰に頭陀袋を下げていて、その中からチャリチャリと固い金属音が聞こえた。

 はて、自分以外に、朝早くこんなところに来る人がいるなんて。

奇妙に思いながら猫の所に戻った彼は、目を疑った。
猫の死体に打ち込まれた釘が、一本残らず失くなっていたのだ。
さては、先ほどの袋の中身が・・・。
混乱した彼はそれ以上考えられず、猫を埋葬して、逃げるように帰宅した。

その日の午後、町に買い物に出かけた彼は、図らずもその男と再会した。
ある家の新築現場で、男は作業服を着て柱に釘を打っていた。
うっすらと笑みを浮かべて。
どうやら大工だったらしい。

 ・・・もしかして、その釘は・・・

確認することが出来るわけもなく、彼は男に見つかる前に退散した。
猫の死体。血塗られた釘。不気味な落書き。新築の家。
家に帰る道中、『呪い』という語が頭の中を駆け回っていた。
男が本当にそんなことをしているのかどうかは分からないが、もうこれ以上係わり合いになどなりたくなかった。

彼は近所の自治会の人にだけ、この話をした。
色々な経由があって、警察が定期的にパトロールしてくれるようになったらしい。
現在のところ、あれから新しい猫は発見されていないという。
あの男がどこで何をしているのかは、不明のままだ。

山にまつわる怖い話9

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