友人の話。
彼は学生時代、山道を自転車で通学していた。
ある日、考えに没頭しながらペダルを漕いでいると、何かが肩に当たって落ちた。
慌てて我に帰り、自転車を停めて地面を確認した。
大きな蝙蝠が、ひっくり返ってもがいていた。
それまで見たことがない大きさだったので、思わずまじまじと見てしまった。
やがて起き上がった蝙蝠は、じろりと彼を見上げた。
不思議に、どことなく人間臭い顔をしていたそうだ。
「やれやれ、言葉の一つもなしか。この郷も人気(じんき)が悪くなったもんだ」
いきなり蝙蝠が滑らかに毒づいた。
呆然とする彼を残し、蝙蝠は林の中に飛び去ったという。
「“じんき”なんて言葉、その時まで全然知らなかったよ・・・」
蝙蝠に馬鹿にされたことで、彼はひどく落ち込んでしまっていた。
どうやって慰めれば良かったのか、いまだにわからない。
山にまつわる怖い話10