知り合いの話。
夜の山道を一人自転車で走っていた時のこと。
いきなり、自転車のライトが暗くなった。
勘弁してくれよ、と愚痴りながら自転車を止めた。
百円ライターの火を灯して、前輪横のライトを確認する。
ライトのカバー部分に、真っ黒な胡麻のような粒が、びっしりと付着していた。
手で払い落としてみたが、またすぐにカバーを覆ってしまう。
よく見ると、まるで生き物のようにじわじわと動いていたという。
そうこうしている内、黒い粒はライターの火にも引かれたようだ。
ざぁっ! 一斉に彼の手に飛びついてきた。
まるで沢山の小さな蟻にたかられたような感触に襲われ、慌ててライターを投げ棄てて、手を服でこすり上げた。
彼は仕方なく、星明かりだけを頼りに家まで帰ったそうだ。
奇妙な黒い粒は、途中いつの間にか消えていた。
山にまつわる怖い話11