友人の話。
林業組合の仕事で、山に入っている時のこと。
当時の彼はまだ見習いで、経験豊富な杣人と一緒だったという。
作業段取りなどを手ほどきしてもらっていると、どこからか歌が聞こえてきた。
♪ある日 森の中~♪
誰もがよく知っている童謡で、ロケーションからも思わず笑ってしまった。
ただ、妙にノイズが多い。声も掠れている。
肉声でなく、ソノシートかレコードで再生しているような感じを受けたらしい。
しかし先輩は真面目な顔になり、撤収の準備を始めた。
何でもこの歌が流れてくると、しばらくして熊が現れるのだという。
避けられる出会いなら避けたほうが良い、ということだった。
驚いて、一体誰がそんなことをしているのかと尋ねたが、知らないと答えられた。
「いつの頃からか聞こえ出したんだ。 何が知らせてくれているのかはわからないが、確度の高い情報だからね」
彼はその後、二度ほど歌を聞いているそうだ。
山にまつわる怖い話12