友人の話。
一人で山歩きをしていると、急に体がだるくなった。
最初は足が重くなる程度だったが、次第にそれが全身に広がっていく。
そのうち、息をすることさえ苦痛になってきた。
首が痛くなり眩暈がし、頭の中がぐるぐると回り始める。
なぜか休憩することさえ思いつかず、ただ苦行のように足を進めた。
じきにキャンプ地に着いた。
既に何人かがテントを設営している。
そのうちの男性一人が彼の姿を見ると、慌ててテントの中へ入っていった。
再び出てきた男性の手には、軍手が巻かれた火箸が握られていた。
それを構え持ち、ひどく怖い顔で友人に近づいてくる。
疲れきった彼の頭には、もう逃げようという気も起こらなかったらしい。
いきなり、火箸が彼の首筋に突きつけられた。
何かが引き剥がされるような感覚。
頭にかかっていた霞が取れて、急にまた物事がはっきりと考えられるようになる。
火箸をみた彼はぎょっとした。
大きな黒い蛭のようなものが、それに挟まれ身を捩っていたのだ。
どうやら男性は、そいつを友人の首筋から引き剥がしてくれたようだ。
手首を返して、蛭を地べたに投げ捨てる。
地面に落ちた蛭はじゅっと音を立て、溶けるようにして消えてしまった。
それからしばらく、友人は体調を崩してしまったという。
山にまつわる怖い話12