狼煙

知り合いの話。

学生時代、仲間数人でキャンプしていた時のこと。

焚き火を囲んで雑談をしていたのだが、背後に下ろした手が何かをつかんだ。
顔の前に持ってくると、かさかさに乾いていて軽い物だった。
しばらく悩んでいるうち、正体が判明した。何かの動物の乾燥した糞だった。

仲間らに笑われて悔しくなった彼は、腹立たしげにそれを火の中へ放り込んだ。
途端、焚き火から白い煙が、すうっと夜空に向かって立ち昇った。
暗い天に向かい、白線を引く。
まるで細く白い柱が、闇の中へ伸びていくようだった。

博学な者が一人居て、ポツンと独り言のように教えてくれた。
乾いた狼の糞を燃やすと、白い煙が出るのだと。
「狼煙」(のろし)と書くのは、そのためなのだそうだ。

皆、無口になり、暗い空に溶け込む煙を見上げた。
しばらくすると煙は出なくなり、いつもの夜空が戻ってきた。
不思議で、どことなく寂しい光景だったそうだ。

山にまつわる怖い話12

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