歌う案山子

友人の話。

彼の実家は山で棚田を耕している。
つい先日里帰りした折、「最近は熊や猪がよく出るので大変だろう」とお祖父さんに振ったところ、何ともおかしな答えが返ってきた。

 熊やらは大変だけど、気をつければそう怖くはない。
 本当に怖いのは、歌う案山子だ。

田で作業をしていると、何処からともなく歌声が聞こえてくることがあるのだと。
目を上げると、遠くでユラユラとハミングしている、細い影が見えるらしい。
ひどく気味の悪い代物なのだそうだ。

そんな時は作業に終いをつけ、すぐに引き上げるのだという。
この時、後ろを振り向いてはいけない。何かと厄介なことになる。
どう厄介なのかは、つい聞きそびれてしまった。

 案山子ってのは、ちゃんと供養してやらないとダメだ。

お祖父さんはそう言って、ちびちびと酒を飲んでいたそうだ。

山にまつわる怖い話15

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