私の体験した話。
大学生の折、私より更に山奥に住んでいる友人の家に遊びに行ったことがある。
彼の部屋に上がり込んで四方山話をしているうち、夕立が来た。
激しい雷が鳴り響くと、外で犬の鳴き声がした。ひどく怖れている様子。
他の多くの犬と同様、ここの家の犬も雷が苦手なのだろう。
「大丈夫、怖がるな」友人は外に向かい、声を張り上げた。
犬の鳴き声は小さくなったが、依然止まない。
玄関にでも入れてやったらどう? そう提案してみた。
彼は顔も上げずにポツリと答えた。
「うちの犬な。去年、死んでるんだ」
思わず手が止まる。
野良犬でも居着いたかと問えば、最近はここら奥でも野良などいないと返された。
鳴き声はいつの間にか聞こえなくなり、雨も直に止んだ。
帰り際、庭を覗いてみたが、ただ空っぽの犬小屋があるだけだった。
山にまつわる怖い話20