アナジ

後輩の話。

以前、山奥の親戚の家を訪れた時のこと。

そこは地方の旧家で、一風変わった古物が沢山あったのだという。
彼はその手の物に目がない。早速、蔵の中を見せてもらった。
年季の入った骨董を感心しながら巡るうち、奇妙な物を見つけた。

黒くて少し大き目の風車。奇妙なのはその材質だった。
薄く叩いてはいるが、どう見ても鉄で出来ていた。
錆がごつごつと浮いており、かなり強く息を吹きかけても回らない。

彼がそれを弄りまわしていると、お祖母さんがお茶を持ってきてくれた。
手の中にある風車を見て「それはアナジを知らせる印だよ」と教えてくれる。
アナジとは専ら冬に吹く強風で、良くない物らしい。
これが吹くとその数日後に、決まって大火が起こったのだという。

「昔の家は木造ばかりだからね、こんな山奥で火事になると大変だったよ」
こんな鉄の風車を回す風って、どんな風なんだろうな。
彼はぼんやりとそう思った。

更に聞くと、最近アナジは滅多に吹かなくなったそうだ。
「温暖化って言うのかしら、そいつの影響かもしれないねぇ」
お祖母さんはそう言って、一人うんうんと頷いていた。

山にまつわる怖い話21

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