知り合いの話。
山深い峠道を歩いていると、前方の道脇に何かぶら下がっている物が見えた。
何を吊るしているんだろうと近よるうち、正体がわかって逃げ出したくなる。
男の首吊り死体だった。
嫌になったが、通報しない訳にもいくまいと思い、場所や遺体の状態を見ておこうと梢の上方を見上げた。
すると彼の視線に合わせたかのように、ずるっと死体の首が伸びた。
ギョッとする。目を擦ってもう一度確認してみると、身体の下がっている位置は変わらず、頭の位置だけが上に伸び上がった状態になっていた。
慌てて視線を下げると、首はすっと縮んで、初めに見た大きさに戻る。
目がおかしくなったかと困惑し、思い切り上の方に向かい頭を上げてみた。
今度は途中で止まることなく、首は勢いよくぐんぐんと伸びた。
空の遥か高みに突き刺さり、小さくなって見えなくなる。
おい、どこから吊ってるんだ!?
疑問で頭を一杯にしながら曇天を見上げていると、プチッと何か切れるような音が聞こえた。
次の瞬間、彼の目の前に凄い勢いで天から降ってきた物がある。
黒ずんで少し歪んだ、舌を吐き出した男の死顔。
舌だけがやけに鮮やかなピンク色をしていたという。
彼の顔の前で二、三度上下すると、ニヤリと薄く笑った。
そこで彼は気を失ったらしい。
意識を取り戻した時、首吊り死体はどこにも見えなくなっていた。
逃げるように山を下ると、麓の町の交番へ駆け込んだ。
事情を説明すると、交番にいた老巡査は少し笑いながら教えてくれた。
「そりゃ本物の死体じゃないな。この辺りに昔から出てる、首吊り入道って奴だ。駄目だよ、上向いちゃ。ずっと下見ていなきゃ。しばらくしたら消えるからさ」
アレも妖怪の一種なのかね。彼はそう言ってこの話をしてくれた。
山にまつわる怖い話24