古びた手鞠

友人の話。

夜釣りをしようと、山中の溜め池に出かけた時のこと。
外灯の明りを頼りに竿を振っているうち、ふと場違いな音が聞こえてきた。

 ぽーん ぽーん

近くでゴムボールが弾んでいるみたいな、そんな音だった。
何の音だろうと耳を澄ませていると、いきなり音は途切れた。
そして横手から足下にコロコロ転がってきた物が一つ。
布で編まれたような、古びた手鞠。

「取って」と少女の声がした。
仰天して周りを見回してみたが、闇の中には誰の姿も見えない。
恐る恐る鞠を拾い上げ、声がした方へ放ってやる。

鞠が地に落ちる音は聞こえなかった。
やがて再び、ぽーんぽーんという音が聞こえ出した。
何も見えない闇の中、誰かが一心に手鞠をついている。
もうとても堪らず、直ぐさま退散したのだという。

帰ってから原因不明な熱が出て、数日間寝込んでしまった。
熱が引いてからも、しばらくは夜釣りに出られなかったそうだ。

山にまつわる怖い話27

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