友人の話。
山中の高速道路を走っていた時のこと。
腹の具合が悪くなった彼は、最寄りのサービスエリアでトイレに行くことにした。
無事にトイレに駆け込み、ホッと一息吐いていると。
しょりっ しょりっ しょりっ
すぐ近くから、何かを混ぜるような音が聞こえてきた。
ゆっくりと米か何かを研いでいるかのような音。
自分の他には、誰も居なかった筈だけど。後から誰か入ってきたのかな。
それにしても妙な音を立てるな、何をしているんだろう?
個室のドアを開けて出ると、音はパタッと止んだ。
トイレには人っ子一人居なかった。背筋が冷えた。
思わず個室を一つ一つ覗き込んでみた。
どの個室も、白い和便器が座っているだけ。
立ち竦んでいると、どこからか再び「しょりっ」と聞こえてきた。
ゆっくりと手洗いに向かい、出来るだけ落ち着いて手を洗う。
鏡に自分以外は何も映っていなくて、本当に安堵した。
彼がトイレを出て行く時も、音は聞こえていたという。
仲間内でこの体験を話してみると、事も無げに言われた。
「あぁ○○のSAでしょ? あそこって小豆洗いが居るよね。何人からか話を聞いているよ。SAが出来る前は近くの集落の小川に出ていたらしいけど。人が沢山来る方が、小豆洗いも張りがあるのかもな」
運が良いなあ、と羨む仲間を尻目に、
「妖怪って奴ァ昼間っから出るものなのか? どっちにしろトイレで研いだ豆なんざ、俺ァ口にしたくはないね」
彼はそう言って仏頂面をした。
山にまつわる怖い話27