バケツの中身

友人の話。

彼は神社の氏子になっており、毎年年の瀬から新年に掛けて、社の世話をしている。
新年の儀を終えてからは、参拝客に御神酒を振る舞うという。
「山中の小さな神社なんだけどね。意外に参拝する人が多いんだ」のだそうだ。

参拝客の中には飲めない人も居るが、そういう人には「縁起物だから」と一口だけ付けて貰ってから、猪口を返して頂くようにしている。
残った御神酒を足元のバケツに掃かして、洗いの担当に回すのが彼の受け持ちだ。

「それがね、時々おかしいんだ」と彼は言う。
「バケツの中身が明らかに減っているんだ。もうパッと見でわかるほどに。飲み残しなんて誰も手を付ける訳ないし。大体、バケツに触る者がいれば俺の目に留まらない訳ないし。山の神様が飲んでらっしゃるのかなぁ?」

神様には、別にちゃんとした御神酒を差し上げてる筈だろ。
「あぁそうだった。確かに年が明けると同時に献上してたわ。じゃぁ、何が残り酒に手ェ付けてるのかなぁ?」

ふむぅと悩ましい顔をした。
しかし別に害があるものでもないので、見て見ぬ振りを続けているのだという。

山にまつわる怖い話36

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