同級生の話。
岩だらけの連山を一人で縦走していた時のことだ。
だだっ広い岩場の真ん中で、籠を背負った小母さんとすれ違った。
こんな場所に何で農作業姿の小母ちゃんがいるんだ? 大根とか背負ってるし。
思わず呼び止め、どちらから来られたんですかと問い掛ける。
「この近くだよぅ」そう言って愉快そうに笑う。皺だらけの顔に邪気は見られない。
近くねぇ・・・首を傾げていると、小母さんは更に続けて言う。
「ここから少し行ったところに無人の湯治場があるけどサ、利用しちゃダメだよぅ。 猫になっちゃうからサァ」
何ですと?
「そこに浸かると、びっしりと猫の毛が生えてきて、やがて本当に猫になっちゃう。身体の大きさは人のまんまっていうから、まぁ化け猫だね。猫湯ってちゃんと看板が出てるから、間違っても入っちゃダメだよぅ。こんな所で猫なんかになっちまったら、飢えて乾いて日干しだよぅ」
呆然とする彼を残し、小母さんはケラケラ笑いながら去って行った。
気になってしまい、注意して探してみたのだが、猫湯などという湯治場などどこにも見つからなかったという。
「からかわれたかな? でも、あの小母ちゃん、本当どっから来たんだろ」
「その小母ちゃん自身が、実は化け猫だったりして。お前、化かされたんじゃない?」
そう口にした私を、彼は引き攣ったような目で睨んだ。
山にまつわる怖い話41