それは俺が小学校4年生ぐらいの時だったと思います。
いわゆる「ジンクス」っていうんですかねえ。
本当にいろいろありました。
これを防ぐと言うか、横切られても不吉なことが起きないようにする「ある」行動があったんです。
「横切られたら13歩後ろ向きで戻ってから歩き出す。」
こうすれば、その後不吉なことが身に降りかかることは無い。
確か何かの本で読んだんだと記憶してます。
ある夜、始めたばかりの部活の帰り道、すっかりあたりは暗くなっていました。
大きな通りは友人何人かで帰ってきますが、自宅の方へと向かう小道からは一人。
小道に入ってから周りはご近所が数件あるだけの街灯も少ない寂しい道です。
が、ほんの100mぐらい歩けばすぐに家です。
「おお、また明日!」
(ネタではなく)今まで見たことのないような真っ赤な月でした。
背筋がゾクっとして何かいいようのない不安感に包まれました。
テクテクテクテク……
ジンクスを信じている私はピタッと足をとめ、後ろ向きに歩き出しました。
「1・2・3・4・5…10歩・11歩…」
13歩戻ったと同時でした。
「…猫かい…?」
自分のすぐ後ろから声がしたのです。
ドキッとしました。
くるっと振り返ると目の前にその声の持ち主、Wさん宅のおばさんがいました。
「うふふ。猫なんだろ。」
暗闇の中でWおばさんがニタリと笑いながらまた言いました。
よく見ると何かいつものWさんとは違う顔をしています。
もともと目の細いひとでしたが、目じりがキッとあがっていて『猫みたいだ…!』瞬間的にそう思いました。
ニヤッとした口元もやけに赤く大きく見えました。
『何かいやだ!13歩戻ったし急いで帰ろう!』
「え、ええ。それじゃ…さよなら」
「ねぇこぉ!あーっはははははははははっ!!!」
「あーっははははははっ!」
『怖いっ!』
暗闇での笑い声。恐怖が完全に体を支配していました。
もう後ろを振り返る余裕はありません。
体中に鳥肌を立てながら全速力で走りました。
遠ざかりながらも笑っている声が聞こえてきます。
「…アーッハハハッ…」
とにかく走りました。
時間にするとホントに十秒ぐらいだったと思いますが、『早く家に!早く家に!』とだけ考えていました。
「ただいまっ!はあはあ…」
家に飛び込み息を弾ませている私を見て母がきょとんとしてこう言いました。
「どうしたの?猫?」
母の言葉は多分本当に偶然だったのだと思います。
「どうしたの?猫?」
という言葉にはかなりビビリましたが、
(目立って嫌悪感をあらわにしていたつもりは無いのですが、私が猫嫌いって知ってれば納得です。)
その後
「ほらほら、なにぼーっとしてんだよーお風呂に入って!」
むくっと起きて玄関口に向かうと「それじゃあ、どうも~」と誰かが帰っていくところでした。
「誰~?」
「ん~Wおばさんだよ~」
昨日の今日だしドキッとしました。
なんだよ~わざわざ昨日の俺の事でも話に来たのかよ、とも思いました。
恥ずかしいじゃんかよ。なんて感じで。
しかし、母の言葉は自分をまた恐怖させるのに充分でした。
じゃあ昨日会ったWおばさんって誰?