生後まもなくの記憶

俺は生後まもなく(2週間以内)の記憶がある。

憶えているのはベッドとその横で添い寝している優しそうな女。
生後間もない俺はこの女に親近感というかぶっちゃけ好きだと思った。
多分母親に対する感情だろう。
暫くぼーとしていると、突然ドアをばーんと開けて、恐ろしい形相の年取った女、とそれより若い女が怒鳴りながら部屋に入ってきた。
俺(生後間もない)は本能的にこの二人は怖いし嫌いだと思った。

その後の記憶はない。

この記憶の意味がわかったのはそれから30年以上後のことだ。
盆休みに嫁と実家に帰省したとき、俺の母親が嫁にこんな昔話をはじめたからだ。

 俺は生後数日後に産院の中で誘拐され騒ぎになったらしい。
 すぐに同じ産院の中で俺は発見されたわけだが。
 誘拐の犯人は中絶するために入院していた水商売の女性だった。 
 子供を堕したもののやはり子供が可愛く、たまたま生まれたばかりの俺を見かけ
 つい自分のベッドにつれてきてしまったらしい。

つまりあの時怒り狂って部屋に来た二人は、助産婦と俺の本当の母親だったわけだ。
でも俺にはこの女性を責める気持ちはまったく無い。
というか、その後のこの女性の人生が幸福であったことを祈っている。

ところでこのことから考察すると生後間もない乳児にもある程度の判断力があるような気がする。
すなわち、人間の男女の判別・老若・喜怒哀楽恐怖の感情・好き嫌い などだ。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 76

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