合宿棟

高校時代の夏休みに部活の合宿で学校の敷地内にある合宿棟に泊まった。
古い高校で心霊現象も多かった。
なかでも私の部室は一番霊がいるって噂の場所だったが、部活は暗くなる前に終わるし、一回か二回程度の霊体験もあまり刺激的じゃなかったので夜の学校にはワクワクしていた。

肝試ししたい!と言う子が他にも何人か居たので、昼間にわざと置いてった忘れ物を取りに行くという名目で顧問の先生から鍵を借りた。
あんまり学校の中をウロウロするのも怖いので簡単な道のりなんだけど、間違って電気消したりしてパニックになったりと結構楽しんでいた。
それでも最上階の忘れ物のある部屋へ来たあたりから、みんな怖くなり始めた。

熱帯夜の暖かい空気の中、口数も減ってソワソワしながら部室の鍵を出す。
部室の鍵がなかなか鍵穴に刺さらなかった。刺さったら今度は上手く回らない。
ドアを開けたときに全員が耳元で「ボ」という音を聞こえてギョッとした。
誰かが「早く!」と蚊の鳴くような声で叫んだのを皮切りに、部室の電気を何回も押してなんとか点けて忘れ物を持って鍵を閉めて階段へ。

また「ボ」と聞こえた。
私は「ボ」と聞こえたんだけど他は「おい」と聞こえたそうだ。
「ボ」「ボ」「ボ」
階段を駆け下りながら、耳元の音はどんどん怒っているような大きな音になっていく。
取り残されたら死んでしまうような気がして、半べそで校舎から飛び出してすぐに施錠した。
校舎を出たくらいから変な音は無くなったけど、怖くて一目散に合宿棟へ戻った。

「おかえり、窓から手を振っているのが見えたよ」
と顧問の先生が笑っていて多分全員が安心した。手は誰も振ってない。
文にしてしまえば大した事ないけど相当怖かったので二度と肝試しなんてしないと誓った。

ほんのりと怖い話84

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