自分はダムカードなるものを集めていて、今日は群馬県みなかみ市内のダムを見て、その後で群馬県上野村にある上野ダムに行っていた。
地図を見れば分かるが、上野村は山中に孤立した村で、上野ダムはさらにその山の中にあるダム。
カード配布場所の日帰り温泉に寄ったのが17時頃で、それから小鹿野・秩父まで山道を抜けて横浜まで帰る予定だった。

自分の車にはナビ非装着でいつも地図持参なので、今日も地図を見ながら山道に入って上野ダムまで行き、来た道を途中まで戻って、国道299号に出る予定でいた。

山の中で時刻も17時なので、周辺は真っ暗闇で、灯りは自分の車のライトしかない状態で山道を戻った。
しかし、国道299号を目指して来た道を戻っているハズが、来た道とは全然違う、見覚えのない道に来てしまった。
道が細くなり、すれ違いできない道幅の山道に入り込み、「マイったな。完全に迷った」と思って車を止めた。

しかし周囲を見ても真っ暗で目印になるものはなく、小雨が降っている状態で星から方向を探すこともできず、地図のどこにいるかさえ分からない状態になってしまった。
仕方なく日帰り温泉のとこまで戻ろうと走り始めたら、「←●●地区(消えていて読めない)」という小さい看板が見え、集落に行けば道を聞けるだろうと思い、矢印の細い道に入ってみた。

すると前に1台の白い車がいたので、その後ろをついて走った。
自分が後ろについたらその白い車はだんだんと加速していき、細い道を登っているのに60キロくらいで走り始めた。
その車が集落の人かも知れないのでついて走っていくと、後ろにもう1台の車がミラー越しに見えた。
前後に2台いて、細い道を相当飛ばしていることを考えると、両方とも地元の車で、集落に戻るところだろうと思った。

しかし、走っても走っても山道を登るばかりで集落が見えない。
時計を見ると既に18時半近くで、迷ってから1時間走っていて、燃料計を見ると相当ガソリンも減っている。
前の白い車について登っていたので、戻ろうにも道も分からず、仕方なく前の車について細い道を走り続けた。

真っ暗の中で延々と同じ道を走っているような気がして、何かイヤな感じがしたのでラジオをつけた。
ラジオからは野田幹子の「太陽・神様・少年」が流れていて、自分は昔この曲が好きだったので少し気が安らいだ。
しかしラジオのパーソナリティが、「今、TVCMでお馴染みの、太陽・神様・少年でした」と。

今?もう30年近く前の曲のはず…と思っていると、ラジオで「お相手は●●●●●でしたー」と。
あえて伏字にしたが、この方は既に亡くなっている。
パニックになりながら「これは相当ヤバイ」と感じた。

もう前の車とか集落とかじゃなく自力で戻ろうと思い、周囲に案内標識がないか注意深く見ながら走っていると、自分が進んでいる方向に「←御巣鷹山」という標識が見えた。
御巣鷹山は飛行機が墜落して500人以上が亡くなった山だ。
ラジオの曲のこと、亡くなっているパーソナリティの放送、さらに大事故があった御巣鷹山に向かっていること。

直感的にこのまま走り続けてはいけないと思い、路肩がある場所で車を停めて、後ろの車を行かせた。
このときに前の車と後ろの車のナンバーが見えたのだが、2台のナンバーがそれぞれ「・・49」と「・・42」だった。

末尾が49と42は、陸運局が欠番にしている番号のはず。
この2台は現実にここを走っていたのか、幻を見ているのか。
しかし、このまま山を登ってはいけないことだけは感じた。
遭難時の定石は山を登れと言うが、御巣鷹山方向に進む気になれない。
車を停めて夜明けを待つか、ガス欠と遭難覚悟で来た道を戻るか。
車から降りてみたが、自分の車の灯りがないと何も見えない。
当然ながら携帯は圏外。
ここまでのことを考えれば、変な世界に来てしまっているのだろう。
そうだ!困ったときの般若心経。
自分は仏教系高校卒なので、般若心経は覚えている。

しかし、普段ならすっと出る「観自在菩薩…」が出てこない。
あり得ない。自分が般若心経を思い出せないなんて。
寝言で般若心経を唱えていたことがあるくらいなのに、こんなこと絶対にあり得ない。

・ラジオの「太陽・神様・少年」の曲。
・既に亡くなっているパーソナリティの放送。
・あり得ないはずの車のナンバー。
・この自分が般若心経を唱えることができない。

明らかにおかしい。
変な世界に来ているならば、このままここで待ったとしても、夜が明けないことは十分にあり得る。
どうなるか分からないが、来た道を戻ってみることにした。

突然、自分の車のヘッドライトが照らしているところに、バイクに乗ったオッサンが出てきた。
バイクは昔の赤いCB750。
しかもこのオッサンの顔は濃すぎて見覚えがある。
顔が郷ひろみよりも濃く、島田洋八よりも濃い。
自分は10年前に仕事で病んでしまい、職場で自殺未遂をした。

即刻病院送りになったが、自殺未遂をした後に、明らかに幻影のこのオッサンを白昼夢的に見たことがある。
このオッサンがCB750に乗ったまま手招きをしている。
ついて行くか迷ったが、下りる方向に手招きをしていることと、明らかに幻影なのだが、見たことがあるオッサンということと、ここにいても夜が明けないのかもしれないのならば、ここで登場したオッサンを神と信じよう。
オッサンのCB750に付いていくことにした。

10分も走らないうちに、オッサンがバイクを止めた。
オッサンが指差した先には、さっきの日帰り温泉があった。
助かった。気が付くとオッサンの姿は無かった。

温泉から車で帰ろうとしていた人に道を聞き、国道299号まで戻ることができた。
1時間も走った道を10分で戻った。
あり得ないナンバーの車について走っていた1時間が幻なのか、10分で戻ったオッサンがワープ?を使ったのか分からないが、とにかく戻って来ることができた。

帰る前に厚木の実家に寄った。ウチのオカンは霊感がある。
オカンに事の次第を全部話すと、「そのオッサンってこの人?」と言いながら古い写真を出した。
あの幻影のオッサンの写真をなぜオカンが…。
しかも、山の中で見た通り、赤いCB750に座って笑ってる。
自分の人生で2度も登場している幻影のオッサン。
写真の顔も、郷ひろみよりも、島田洋八よりも濃い。
かなり個性的な、好みが割れそうな色男とブサの紙一重的な顔。

自分は訳が分からなくなった。
パニックになって煙草を10本以上連続で吸った。

気を落ち着かせてからオカンのところに戻った。
結論から言うと、郷ひろみよりも島田洋八よりも濃いオッサンは、自分の死んだ実の父親だった。
父親は自分が1才の時にバイク事故で死んだと聞かされていた。
だから物心ついたときには既に父親がいなかったので、ウチは父親がいないのが当然だとずっと思っていた。
以下、紛らわしいから「実の父親=郷」と書く。

そのうちにオカンが再婚して、郷のことも言えなくなった。
だから、今まで郷の写真を見たいと言ったこともないから、これが40才にして初めて郷との遭遇だった。
しかし、位牌もなく、法事もやらないのは変だとは常々思っていた。
今しかないと思い、このことをオカンに言ってみた。

郷も自分と同じで、早くに父を亡くしていた。
だから郷は母親に育てられていたが、結婚してわずか2年で郷が事故死。
郷母にしてみたら、やっと所帯を持ったと思ったら急逝してしまい、郷母は精神的におかしくなったらしい。
郷母は葬儀のあとで郷の私物をすべて持ち出し、自分の家に持ち帰った。
位牌から遺品から何から何まで。
少しだけ残ったもののうちの1つが、この写真とのこと。
法事も郷母が「自分だけで執り行うから来るな」と言われ、オカンと郷母は絶縁状態になった。
そしてその数年後、郷母も亡くなったとのこと。

何だかよく分からないけど、まだ気持ちの整理ができないけど、とにかく自分は死んだ父親に助けられたのだと思う。
やっぱオヤジってすげぇ。オヤジありがとな!
でも、オレはそんなに濃くてクドイ顔じゃないけどな。

山にまつわる怖い話75

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