スケッチブック

美大生だった頃の話。

キャンパスの2階にあった絵を描く作業場でぼんやりしてたら、イーゼルの上に誰かのスケッチブックが置いてあった。
なんとなくパラパラとページをめくってたら、口を縦に大きく開けて舌を出している、細長すぎる顔をした女の絵が描いてあった。

昔風のソバージュヘアで、黒目が大きく空洞みたいで、舌が異常に長かった。
そして、意味分かんないんだけど、絵の右下に「操縦不能」って文字が書いてた。
美大だから奇天烈な奴も普通に居たし、怖い絵もそんなに珍しいものでも無いんだけど、その絵はなんか本当に異様な感じがして、怖くなってダッシュで教室を出た。

中庭まで出て、2階にあるさっきまで居た作業場の方の窓を見たら、めっちゃ笑顔の女が、さっきのスケッチブックの不気味な絵を、俺に見えるように、窓の外に向かってかざしてた。
あれは怖かった。
怖すぎて、卒業までの間、作業場で一人にならない様に工夫してた。

この話、ちょっとほのぼのするというか、変な後日談があります。

俺は美大の学芸祭の実行委員だったんだけど、学芸祭の準備に追われていた時に、体調悪かったから、中休み貰って当時一人暮らしをしていた美大の近くのアパートに戻って仮眠してたら、金縛りにあってしまった。

金縛り自体は疲れてる時はよくあるから別に怖く無かったんだけど、目を開けたら、あの絵に描かれてた細長い顔の女が馬乗りになってこっち見てたんだよ。
黒目の大きい空洞みたいな目で、こっちを見ていて。
どういう意図でかは分からんが、舌をベーっと俺の顔に向かって伸ばしてきてた。
その時にワンワン吠え声がすると思ったら、当時実家で飼っていたウェルシュ・コーギーが俺の周りをグルグル回っていて、そのあとソバージュの女がキャーって叫んで消えた。

俺を心配して、犬の生霊が俺のところまでやってきてくれてたのかなと、自分に都合よく解釈して、今でも時々思い出してほのぼしている。

ほんのりと怖い話125

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