高校のとき、なんの脈絡もなく女の幽霊を見るようになった。
曰くありげな場所に行ったとか、罰当たりなことをしたとかの心当たりはまったくない。
ある夜、不意に目を覚ますと布団の横に着物の女が座っていた。
怖いのでそちらに背を向けて布団を頭までかぶって、気のせいだという事にして寝た。
翌日思い返してみると金縛りになっていなかったことに気付き、夢だったと言う事で納得することにした。
だがそれから度々現れる。
毎日出る訳ではない。
朝まで熟睡する日もある。ふと目が覚めても居ない日もある。
だが速い時は、明かりを消して布団に入って横になって、あ、トイレいってないなと目を開けるともう居たりする。
夢ではなさそうだ、だがよく聞く金縛りとかもない、だからといって触ってみる勇気もない。
少し慣れてきたので姿をよく見てみた。
黒っぽい着物に少し乱れた日本髪、右側の少し奥、寝ている俺の膝がある辺りに、まるで看病でもしているかのように布団の方を向いて正座をし、背を丸めてうつむきぼんやりと下を見ている。
なんとなくだが、時代劇に出て来る貧乏長屋に住む奥さんといった感じだ。
その奥さんが出始めて一月近く、もういいかげんなんとかしたい。
友達に話しても夢だと笑って流されるか、おっぱい揉んでみろとからかわれるだけで、霊感があるとか、霊能者の知り合いがいるなんてヤツは残念ながら現れない。
しかし考えてみると悪さをする訳ではない。
うらみつらみがある風でもない。
そもそもなぜ俺の所に出始めたのか?
俺と時代劇の奥さんとなんの接点があるというのか?
何か伝えたいことがあるのだろうか。
やって欲しいことがあるのだろうか。
仕方がないので聞いてみる事にした。
ある夜、現れた奥さんに、
「何か言いたい事があるんですか? して欲しい事があるんですか?」
と、心の中で問いかけてみた。
が、無反応・・・
何度か問いかけてみたが反応がない。
心の中でお経を唱えるとオバケに効果があると聞いたので伝わるかと思ったがダメだったようだ。
もう覚悟を決めて、布団から出て、まくらの横に正座して、思い切って声に出して話しかけてみた。(寝たままだとなんか失礼な気がした)
「あの、」
といった時、奥さんの頭がちょっとだけピクッと動いた。
それを見て「あ、動けるんだ!?」と思って怖くなったが、「何か、俺に言いたい事とか、あるんですか? あの、用事とか・・・」と続けた。
もう怖くて心臓バクバクで反応を待っていると、ゆっくりと丸めていた背筋を伸ばし、布団を見続けたまま、「では、ひとつだけ・・・」と小さな声で言った。
ホントに喋った!と思いながら、「はい、なんでしょう」と言い、ドキドキしながら次の言葉を待っていると、手をついて深々と頭を下げ、
「もう、来ないで下さい・・・」
と言った後、その姿勢のまま急速に色を無くし、すぅっと消えてしまった。
あまりにも予想外の答えにあっけにとられ、
「いやいや、違うから、来てるのアンタだから」
と今度出たら絶対言ってやると思ったが、
言いたかったことが言えて満足したのか、もう奥さんは二度と現れなかった。
ほんのりと怖い話126