【家は昔質屋だった、と言ってもじいちゃんが 17歳の頃までだから私は話でしか知らないのだけど結構面白い話を聞けた。田舎なのもあるけどじいちゃんが小学生の頃は幽霊は勿論、神様とか妖怪やら祟りなど非科学的な物が当たり前に信じられていた時代でそう言った物を質屋に持ち込む人は少なくは無かったそうだ。】
修理が終われば購入を考えているのだろうか、その客は毎日の様に店に現れ「修理中」の紙が貼られたラジオをいつも眺めていた。
茶の間から店を覗くと時折彼と目が合う、するとにこりと笑いかけてくれる愛想の良い客だった。
そんな客とは正反対に彼がお金にならない客と判断してか、全く接客をしなければ黙々と帳簿を付ける無愛想な親父をみて喜一はあきれたのをよく覚えている。
「喜一、ちょっくら出てくる店頼むぞ」親父は喜一の返事も聞かずにさっさと出かけて行き喜一は否応無しに店へとかり出された。
大きなあくびをしながら店へと出ると思わずあくびが止まる、「彼」がいたのだ。
喜一に気づき「やぁ…こんにちは」と彼の方から挨拶してきた痩せた優しそうなおじさんだ。
喜一も軽く挨拶をすると彼はまた骨董を眺め出した。
特別する事も話す事も無い喜一はボケっと人間観察をしていると、喜一の視線に気づいたのか彼の方から話しかけてきた。
「ここはいいね、いい骨董屋だ、品もキレイに監理されている」
そう言われると骨董屋と言う職に誇りなんて持ってはいなかったが悪い気はしない、喜一は気恥ずかしくも礼を言うと何だか彼と親しくなれた気がした。
そんな彼がいつからか「あれは何だろう…?」と店の外を指さす様になった。
「あれ?」 店の外はただの寂れた商店街通り、この時間は人も歩いていないのに彼は何に反応したのだろう?首をひねらすと彼は「いや、いいんだ田舎町は初めてだからかな、すぐ何でも珍しがってしまうんだ」と言うだけだった。
喜一もその時は気にもしなかったが
「また、あれが来ているね」
「あれはずっとあの形なのかな?」
「あれはどうして少しづつ近づくのだろう」
などと彼の発言は日に日に喜一の好奇心をふくらませて行った。
喜一が「どこどこ?」と店を飛び出すたびにアレは消えてしまうらしく、喜一は一度も目にする事は出来なかった。
彼を見る様になって1ヶ月ほど経とうとする頃、久々に店番をしていた喜一の前に彼が現れた。
所が様子が変だ、番台にいる喜一の前に立ち下を向いたまま動かない…
何事か?と思った喜一も緊迫した空気に飲まれ動けずにいると、ゆっくり顔を上げた彼が「ねぇ…あれが見えるかい?」喜一の顔をじっと見て冷や汗をかき必死な顔で言うのだいつもの様に外を指さすわけではなく。
その瞬間喜一は急に恐ろしくなった、アレが解らないし見えない喜一は正直に頭を横に振ると、逃げるように去って行った彼はその日を最後に謎を残したまま現れなくなった。
それから数日後。
はたきがけを手伝わされた喜一は、あのラジオの埃を取り払うとふと彼を思いだし店の外を眺めた。
外は何でもない商店街の風景…小さな子どもが縄跳びをしている……
「アレは何だったんだろう…」
独り言の様にぽつりと言うと親父が帳簿に視線を落としたまま答えた。
「あぁ……迎えか?」
親父はアレを知っていた
「迎え?何の?」
驚いた喜一を見て今度は親父が驚いた顔をした。
「四十九日だよ…おめぇあいつが人間に見えたのか?」
そう言うと親父はラジオの前に立ち「迎えが来て助かった、あのまま憑き物にでもなられたら祓い代もバカにならんからな」と言うとラジオに貼ってあった「修理中」の紙をビッと剥がしクシャクシャと丸めて捨ててしまった。
修理中のラジオの「修理」の意味と客では無かった「彼」と四十九日かけて迎えに来る「アレ」の正体がようやくわかった喜一はふと思う「あのとき自分は何に恐ろしくなったのだろう?」と。
不可解な体験、謎な話~enigma~48