これも長崎丸に乗船していた時の事です。
船舶は航海中、VHFという船舶無線を常に開いており、近隣の船舶てやり取りを出来る様にしています。
私はやり取りの実用をしている場に遭遇する機会はありませんでしたが、VHFは常に稼働しており外洋航行中には良く分からない英語を受信する事もありました。
大抵は我々には関係ない内容で聞き流していました。
関係ないと分かるのは、教官が聞き流していたから状況的にそう思っていただけで、実際は関係ある内容なのか無い内容なのがも判断できませんでしたが。
それでも、特に外洋航海中には何日も代わり映えしない生活空間が続きますので、ワッチ(ブリッジで当番制で行う見張り)の時にたまに受信するVHFは良い刺激でした。
外洋ではVHFを使って歌を歌う外人さんや、それにイェーイと歓声を入れる人もいたりして、なかなか楽しめたのです。船影は見えませんが、それがかえって航海中だという雰囲気を駆り立てました。
ワッチの当番は船によって時間帯が変わりますが、長崎丸では伝統的に0時から4時間毎に交代します。私はゼロヨンワッチの担当でしたので、0時から4時と、12時から16時の一日二回の合計8時間が当番というシステムです。
巡行中の航海士の主な仕事はワッチです。
いつものように0時から4時のワッチの時間になり、ブリッジに上がり見張りについていたのですが、VHFからボソボソと声が入ってきました。
操業域でもないのに珍しいなと思っていると、ボソボソ言っているのはどうやら女性で、しかもむせび泣く声である事がわかりました。
最初は聞き違いかと思い気にしていませんでしたが、30分位しても止みません(30分おきにlogを付けるので、時間は結構正確なはずです)。
ワッチ中は基本的に雑談等せずに無言なのですが、あまりにも気味が悪いので教官にこれは何事かと尋ねましたが、教官は「気味が悪いよな。ワハハ」とあまり気にしてもいない様子でした。
その時は雰囲気的に深く聞けず、恐らく1時間半位でしょうか、女のむせび泣き声を暗闇の中、無言で聞いていました。
他の音はオモテが波をきる音だけで、異様な時間帯でした。
ワッチの後、仲の良い甲板員の操舵手になんだったのかを聞いてみましたが、やはりたまに有るんだけど、気にしても何にもならないし、実害もないのだから放っておけ。との返事でした。
海にまつわる怖い話・不思議な話18