屋上でうつ伏せになる男

仕事で市役所の分庁舎へ行った時のこと。
昼飯を食った後、ヒマだったんで屋上へ上がろうと思った。
屋上へ出るドアには鍵が掛かってたけれど、立ち入り禁止の表示もなかったんで、解錠して外へ出た。

五月晴れの良い天気で、風が心地よかった。
白いタンクを回り込む。すると、柵の向こう側でうつぶせになっている男が目に入った。
ギョッとして足が止まる。
縁から頭だけを突き出して下を覗くような姿勢。頭は肩の向こうに隠れて見えなかった。
自殺志願者?
あたりはシーンとしていて人気がない。

声を掛けたものか迷っていると、ふいに下の方から女の悲鳴が聞こえた。
途端に、男は立ち上がるとこっちを振り向いた。
ごく普通のサラリーマンのように見えた。手には何も持っていない。
男は柵を乗り越えると、私の目の前を横切ってタンクの陰に消えた。

下の方で窓の開く音がして、何人かが騒ぐ声が聞こえた。
口々に「この上だって!」「男だよ!男!」などと言い合っている。
何となくマズイと思って、すぐに屋内に入った。

帰る際に分庁舎の建物を見ると、最上階の窓から屋上まで2m近くあるように見えた。
あの男は、あんな所でいったい何をしていたのだろう?
下の階の女は何を見て悲鳴をあげたのだろう?

不可解な体験、謎な話~enigma~ 17

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