中学生の頃は月水金の週3日、夕方から夜9時までを塾で過ごしていた。
当時、住んでいた地域はまさにド田舎で、夜8時にもなると大半の店は閉まり、街なかでさえ人通りが途絶えるような場所だった。
塾へ行くには大通りを使うこともできたけれど、ほとんど街灯の無い、薄暗い住宅街の通りの方が家から近いので、よくそちらを利用していた。
いつものように通りへ入ってすぐに、通りでも一際暗闇になっている場所へ一台のワゴン車が停まっているのがみえた。車がぎりぎりすれ違えるくらいの幅しか無い道には大抵、無断駐車がしてあったので、今日もなのかと何となく見ていたら、違った。
暗すぎて気づかなかったけれど、よく見たら運転席の側に立つ人影があったのだ。
人影はとても熱心に、運転席に座る知人にだろうか、話しかけているようだった。
私は少し距離をとってその横を通り過ぎた。
その際に聞こえた話し声は酷く小さくて、ほとんど聞き取れないくらいだったが、今日も良い天気ですね、とか最近どうですか、とか世間話程度の内容をぼそぼそと呟く様に、相手へ投げかけている事だけはわかった。
人影からいくらか離れたときふと、おかしい、と思った。
よく考えたら話し声は、一人分しかなかったからだ。
それに気がついたとき、思わず私は足を止めてしまった。指先がしびれたようになり、全力疾走した後のように心臓がバクバクと鳴りだす。
今振り返れば、真後ろに、あの人影が立っているような気がする。
恐怖で震えが止まらなくなったのは初めてだった。ガチガチと鳴る歯を手で押さえつけて、足音をなるべく立てないように慎重に歩みを進めた。
曲がり角へ差し掛かると急いで壁際へと身を隠してしゃがみ込んだ。
そのまましばらく、落ち着け落ち着け、と自分に言い聞かせながら身を潜めていたが、震えが少しだけおさまるとなぜか、今のは気のせいだったんじゃないか、と思い始めた。
(今考えてもこの時の自分の考えは理解できない)
壁に手をつけて顔だけをそろそろと出し、ワゴン車へと目を向けると、人影は同じように無人の運転席の側にあった。
その時私は、この行動をとても後悔した。
人影が無表情に、私をじっと見つめていたから。
その数分後に、同じように塾の帰りだった弟が通りがかったので、訳を話して確認してもらったが大通りに出てくる人はもちろん、通りに人影なんてまるでなかった、と言われ、挙句には笑われてしまった。
塾はその後すぐに辞めてしまったのでその通りを使うことも無くなったのだけれど、もしかしたらまだあの人影があるのだろうかと思うと、あの薄暗い道を歩くことは、私にはできそうにない。
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