警官の友人の話が好評だったのでもうひとつ。
こんどの話は友人も真偽不明と前置きして話してましたのであしからず。
友人には交番勤務の先輩がいるらしく、その人がある日友人に飲み屋で話してくれた話です。
以下先輩をAとします。
ある日Aさんが勤務する交番に、返り血を浴び血まみれの包丁を持った男が出頭してきた。
彼曰く、どうしようもない理由で人を殺してしまったので逮捕してほしいとのこと。
直ぐに本署に連絡し応援を要請し、その間軽い尋問をしたんだけど、内容があまりに異様だったらしい。
その男は、
「私は自分を殺しました」
と供述した。
男の供述はまとめると以下のような内容だったらしい。
ある日視界の隅にこちらを見ている視線を感じるようになった。
その感じは日に日に強くなり、ある日人ごみにまぎれて自分そっくりの人間がこちらをへらへら笑いながら見ていることに気づいた。
もう一人の自分は、いつもその日の自分と同じ格好をしており、日に日に自分との距離を縮めながらこちらを見続けていた。
ある日会社に出勤するために電車に乗っていると、いつの間にかすぐ後ろまで近づいていたもう一人の自分にこう言われた。
「そろそろ代われよ」
その日からもう一人の自分に殺されるんじゃないかと思うようになってきた。
だからいつも包丁を携帯していて、すぐ近くにいるのがわかるともう一人の自分に切りつけた。
切りつけたことは何度もある。
ただいつも致命傷は与えられず、逃げられてしまった。
そのうち自分ともう一人の自分の区別がつかなくなるような感じが強くなり、今日こそは殺してやろうと待ち構えていた。
そして今日河川敷の草むらで、もう一人の自分の首を包丁で切りつけ殺してしまった。
Aさんはキチガイの妄言だと思ったが、血のついた包丁と返り血は間違いなく自分の目の前にあったので、本署から到着した応援に尋問内容のメモを渡し、その男の身柄を引き渡した。
その後Aさんは書類の提出で本署を訪れた際に、その後の事件の進展を知り合いの刑事に聞いたらしい。
捜査を担当した刑事は、実につまらない事件だったといいながらこう教えてくれた。
あの男の自供通りの場所に行ってみたが、死体はおろか草が倒れた後も見つからなかった。
ただし血痕が付着した雑草があったため、それを持ち帰り鑑識に回した。
そうしたら驚いたことに、包丁に付着した血も、男の衣服に付いた血も、草の返り血も男自身のものだと判明した。
そして男は自傷癖があることで心療内科に通院記録があり、実際男がもう一人の自分に切りつけたと自供した場所と、男の古傷の位置がすべて一致した。
その為この件は男の妄想による自傷事件として片付けられ、男の身柄は同居の両親が引き取った。
Aさんはなんだかがっかりした感じがして、お礼を述べて早々に立ち去ろうした。
すると、知り合いの刑事がAさんを引き止め、あいつ面白いことを言っていたからせっかくならこれも聞いていけ、と言われた。
「そうです、確かに私の体にはもう一人の自分に切りつけた場所と同じ個所に傷があります。でもそれには理由があって、私がもう一人の自分を殺した夜には必ず金縛りにあうんです。すると、私が切りつけた場所から血をだらだら流したもう一人の自分が現れて、動けない私に囁くんです。『同じ自分なのに、違いがあるのはおかしいよね』 そして朝目を覚ますと私が切りつけた場所と同じ個所に、いつの間にか傷ができているんです。 何も知らない家族は私が自分で傷つけたと思い心療内科にも通わされましたが、信じてください!これはすべてあいつの仕業なんです!」
そこまで言うと、知り合いの刑事さんは含み笑いをしながらこう尋ねてきた。
「話を聞いた時は聞き流したが、なぁ、いったいなにが本当のことなんだろうな?」
Aさんはそれを聞いて思わず考えた。
男の話が本当ならば、今度は男の首に致命傷の傷が写されることになる。
そうするともちろん男は死んでします。
ただし今のところそんな話を自分の管轄内で聞いたことなない。
やっぱり男の言っていたことは嘘なんだろうか?
それとも、男は確かに死んで、じつはもう一人の自分にとってかわられてしまったんだろうか?
Aさんは考えてもらちが明かないので考えるのをやめたが、それから鏡を見るのが少し怖くなってしまったらしい。
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