数年前、親父が死んだ。
食道静脈瘤破裂で血を吐いて。
最後の数日は血を止めるため、チューブ付きゴム風船を鼻から食道まで通して膨らませていた。
親父は意識が朦朧としていたが、その風船がひどく苦しそうだった。
その親父がかすれた声で「鼻を入れ替えろ、鼻の名前を入れ替えろ」と言った。
名前?俺や家族は、「チューブを通す鼻の穴を入れ替えろ」という意味だと思ったんだが、『名前』というフレーズの意味が分からない。
結局「意識も混濁してるようだから言い間違えくらいあるだろう」という結論になった。
親父はその次の日亡くなった。慌しく葬式の用意。
その用意中、献花の配置がおかしいことにお袋が気づいた。
遠縁の親戚からの花が真ん中にあって、親父の勤めてた会社社長からの花が端っこに追いやられてたのよ。
そして葬儀屋に言った訳だ。
「すいません、あの二つの花を入れ替えてください。大変でしたら、花に付いてる名前を入れ替えてください」
その時、俺と祖母が同時に気づいた。
「お袋・・・今、なんて言った?」
「『鼻』の名前を入れ替えろ」
「『花』の名前を入れ替えろ」
親父はこのことを言いたかったのだろうか?お世話になった会社社長に失礼を働くのが嫌で、こんな予言を残したのだろうか?
もう、真実は分からない。
その社長はとてもとても良い人で、母子家庭になった我が家を助けてくれた訳だが、それはまた別の話。
不可解な体験、謎な話~enigma~ 23