ある男の話
大雨が降った日、当時小学生だった彼は、川を見にいったそうだ。
川は茶色い濁流で溢れ返り、時折、びっくりするような物が流れてくる。
大人三人分はある大岩がごろごろ転がってきたり、根っこごと引き抜かれた大木が渦を作っていたり。
上流から車まで流れてきた。
フロントガラスまで水没したその車が、ゆっくり彼の前を通り過ぎたとき、ぽくん、と音がして運転席のドアが開いた。
「偶然かもしれないけど」彼はしかめっ面をした。
「嫌な気がして家に逃げ帰ったね」
遠ざかっていく車とは反対に、濁流の中、彼に近づいてくる水の流れが見えたそうだ。
山にまつわる怖い話34