2つの井戸

東京のとある土地に母方の婆ちゃんの実家がある。
婆ちゃんの実家には、俺の母の弟にあたる人、つまり叔父が息子、娘と一緒に住んでる。

うちはその一部の土地を借りて家を建てた。
婆ちゃん家の隣にたたずんでいる。

婆ちゃんの家は建て直した状態だが、以前は、木造のなかなか雰囲気をもった家だった記憶がある。
家の周りには木がうっそうと茂っていて、井戸が2つあった。
片方は、深さ1メートルぐらいの石でできた容器のようなもの。
井戸とは言わないか。

もう片方が年代物で深さも相当なもんだ。
俺の家の正面にあり、今では蓋がしてあるのだが、昔は地下水を汲んでいたようで、蓋の上には手動のポンプみたいなものが今でも残ってる。

俺が生まれた頃にはもう使用されていなかったが、蓋の一部がかけていて、中に石を落としては水の音を楽しんだものだ。
形は「井戸」らしく円形で、今思い出すと結構怖かったりする。

俺は小学生の頃、ちょっとした夢遊病があった。
いつのまにかソファーで寝てたりして親に怒られた事もあった。

そんな小学生5年生の時の真夏の夜
俺はいつものように布団にもぐった。
ふと半起きのような状態になり、布団が無い事に気づいた。
また夢遊病か?しかしその日はいつもと感じが違った。

夏なのになんだかヒンヤリする。
ふと目を明けると星空が見える。まだぼけている。
手探りで周りを探ってると、硬いものにあたった

隣には井戸があった。

俺は家の外にある井戸の横で寝てたのだ。
俺は途端に目が覚め、急いで家に入ろうとした。
ドアがあかない。鍵がかかっている。
「僕はどうやって外へでたんだ(泣)」
勝手口と縁側のドアからも入ろうとしたがどこも開いてない。

後ろで水の音が聞こえた。

泣くしかなかった。とにかく怖くて早く中に入りたかったがドアが開かない。呼び鈴を押し続けた。

バシャバシャ

どれぐらい時間がたったんだろう、ついにドアが開いて中に入る事ができた。
母ちゃんがいれてくれた。俺はすぐに布団にもぐりこんだ。

朝起きるといつもの朝だった。
弟がいて親父がいて、母ちゃんがいて。
母ちゃんに礼をいおうと思って話しかけたが覚えてないという。

「あれは夢だったのかな・・・」

嫌な事は早く忘れよう。
俺は二度寝しようと思ってベッドへ戻った。
俺は血の気がひいていくのを感じた。
ベッドの上には芝生が落ちていた。

「僕はやっぱり外へでたのかな?」

実家に帰って、家の前にたたずむ井戸を見るたびに思い出してた。
小学生の頃の不思議な体験を・・・

両親は今海外にいってるため俺の実家は空き家状態だ。
なので去年の年末は久々に婆ちゃんの実家でお世話になったんだが、その時に自分自身納得できる答えが出た。

久々に従兄弟と話をしてたんだが、そのうちに家の話になった。

「同じ土地に、年の同じ子供が生まれると弱い方が負けて死んでしまう」

うちの父が、母方の爺ちゃんから土地を借りて家を建てる時に霊能力者から聞いた言葉らしい。
「弱い」というのは何が弱いのかまでは分からないが、俺は霊感はないしそういう話は全く信じない性格だった。

だがこの時初めてぞくっときたな。

俺には妹がいた。
そして母方の婆ちゃんと一緒に住んでる、母の弟にあたる人、つまり叔父その人には俺の妹と同い年の女の子が生まれてたんだよな。

俺が小学生3年生ぐらいの頃、妹は小さい方の井戸に頭から落ちて死んだ。
まだ2歳ぐらいだったか・・・何故井戸に向かったのか?
細かい事情は親から知らされてない。
その時霊能力者が言ったらしい。

「ほら言った通りだ・・・」

俺がその場にいたら殴りかかってただろうな・・・
正直これはただの偶然だと思ってるが・・・
その小さい方の井戸は今は跡形もない。

んで従兄弟の話の続き

去年従兄弟の知り合いで霊感の強い人が遊びにくる事になったらしい。
その土地に入るや否や、俺の家の方を見てこういったらしいんだ

「井戸の周りで2歳ぐらい?の女の子が遊んでるね」

勿論その知り合いは俺の家の事情を知らない。
そしてその霊には害は無いらしい。

ただ楽しく遊んでるだけだ、と・・・

井戸の周りでは兄弟仲良く遊んだものだ。
勿論妹も一緒に・・・

俺が小学生の頃、体験した出来事
あれは妹が寂しくて俺を呼んだんじゃないのか?
ただの夢だったかもしれない。でも妹の事は今でも思い出す。
何で守ってやれなかったのかと・・・
だから俺は霊感が無くてもそう思っておきたい。

今爺ちゃんの具合が悪くて今年もたないかもしれない
そうすると相続税やら何やらで土地の大半は無くなりそうなんだ。

でもこの井戸だけは、見る事は出来ないが、
今でも妹が遊んでるこの井戸だけはずっと守っていきたいと思った。

不可解な体験、謎な話~enigma~ 42

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